『S-Fマガジン』2022年6月号No.751【アジアSF特集】

『S-Fマガジン』2022年6月号No.751【アジアSF特集】

 久々のアジアSF特集なので期待したのですが、すでに成熟期に入ってしまったのか、一時期のような熱さは感じられませんでした。

『三体X 観想之宙』宝樹/大森望他訳
 冒頭のみ掲載。
 

「我々は書き続けよう!」韓松/上原かおり(让我们写下去,韓松,2022)★☆☆☆☆
 ――古今東西、作家はみんな宇宙人だった。その宇宙人たちが語る、宇宙を駆動する根本原理とは?(袖惹句)

 中国作品。くだらない。
 

「星々のつながり方」昼温/浅田雅美訳(星星是如何相连的,昼温,2022)★★☆☆☆
 ――地球から宇宙へと開拓団として旅立つには精神的な検査結果が重要であった。これが限りなく平均的、標準的でないと、団体行動を乱すとして、申請を却下されるのである。丁は地球から旅立つのを強く望んでいた。一方、展は安定した地球での生活を強く望んでいた。彼女たちの希望が一致したとき、ひとつの計画が浮かぶ。無事に実行したものの、地球に残された側には信じられないほどの差別が待ち受けていた。同時に地球を旅立った開拓団は謎の未知なる言語を残して消滅していた。地球で、宇宙で、何が起こっているのか。言語学のプロでもある展は残された新たな言語を解析していく。そこには地球と宇宙とで同時多発的に生じた驚くべき言語学的な現象が……。そして最終的に彼女たちが選んだ道とは。(特集解説より)

 中国作品。あらすじほどドラマチックな内容ではありません。
 

「文藝責任編集 出張版 韓国・SF・フェミニズム

「0と1のあいだ」キム・ボヨン/斎藤真理子訳(0과 1사이,김보영,2009)☆☆☆☆☆
 ――揺らぎ続ける宇宙の中で、スエは十代の自分と交わした約束を守るために時間旅行を繰り返す(袖惹句)

 韓国文学は青臭いイメージです。
 

「韓国発の新しいSF」チョン・ソヨン×ファン・モガ×すんみ
 「男性を主人公にした一人称の作品で、現実がそうだからといって偏見をそのまま書いてはいけない、ということです」って、それは違うだろうと思うのですが。

「データの時代の愛《サラン》」チャン・ガンミョン/吉良佳奈江訳(데이터 시대의 사랑,장강명,2019)
 ――運命的に出会ったカップルの持続可能性はどのくらいか。予測分析アルゴリズムの判断は――(袖惹句)

 韓国作品。
 

「さあ行け、直せ」ティモンズ・イザイアス/鳴庭真人訳(GO. NOW. FIX.,Timons Esaias,2020)★★★☆☆
 ――主人公は人工知能を搭載した自立式のパンダピロー(パンダ型枕)。空港の売店の棚で忘れ去られ倉庫に送り戻されそうになっていたのを乗客に買い上げられ、空気を吹き込まれて枕として使われたのちに頭上の棚に押し込められていたところ、彼らの乗機した自動操縦飛行機が爆発事故に巻き込まれる。ピローにはもともと〈人間を守れ〉〈人間を励ませ〉という命令がプログラムされており、本来ならば所有者に対してのみそのプログラムが適用されるはずが、ピローを買った乗客が製品登録をしなかったため乗客全員を救うという使命感のもと行動することになる。機内の乗客たちが意識を失うなか、救助ドローンやドリンクカートとともに工夫を重ね奮戦するのだが……(解説より)

 これは特集ではなく、〈アシモフ〉誌読者賞ショート・ストーリー部門受賞作。これもあらすじ以上のものではありませんでした。
 

◆劇場版アニメーション『犬王』は、古川日出男原作の南北朝の物語。「極めてユニークなのはふたりのコラボレーションをミュージカルとして描いているところ。その音楽のジャンルはロックそのもので、川原は橋に集まった観客たちも、そのショーを目にし、耳にして、思わず手拍子をとり、身体を動かしまくる」「さらに、踊り手である犬王のダンスは新体操とバレエを組み合わせたようなモダンなスタイルで、常識を軽々と飛び越える躍動感」という紹介文は面白そうなのですが、YouTubeで公開されている予告編はくそつまらなそう。広報がアピールしたいところと視聴者が面白がるところがずれているんだと思います。
 

佐藤佐吉インタビュー アジアの中の日本映画・ドラマ」
 アジアSF特集。予算のない日本映画が「予算に一番左右されるのが脚本のクオリティ」という、誰もがわかってはいてもどうにもならないのでしょう。そこから一歩踏み込んで、「若い監督のなかに面白い映画がある理由は、多くの場合それが自主映画だから、脚本を書く時間がほぼ無限にあるからでしょう」という考察はなるほどと思いました。

 監督も俳優もされている方だからこその意見がこちら。「(インタビュアー)――確かに、演出の意図がわからないまま演技プランを考えるのはつらいですね」「脚本家がおそらくそういうつもりで書いていることは、その後の展開を深く読めばわかる。でもそこをあからさまに書くと、日本のドラマや映画界では、演出の領域に口を出しているという話になる。だから役者が自分でそれを読み取ってやっていくしかない。現場に行ってみて、監督から違うよと言われることも多いですよ」「ところが濱口さんの『ドライブ・マイ・カー』のシナリオを読むと、無駄な所が一切ないくらいト書きがそぎ落とされているんです。そこにマジックがあるのは、濱口さんはリハーサルを徹底的にやって、本番前の空き時間にも、とにかく一切の感情をこめず棒読みする。(中略)そうすると、役者は本番ではじめて役としてその出来事を経験した時の、新鮮な感情で芝居をすることができる。そのおかげでああいった、ものすごく複雑な表情だったり芝居になる。(中略)濱口さんは書き込まないのだけど、自分なりのメソッドを作っている」

 インタビュアーが「子ども時代に読んだ感覚をそのまま思いだすような仕上がりだった」と話す、NHKドラマ『シリーズ江戸川乱歩短編集』「怪人二十面相」はぜひ見たい。「二十面相と明智が突然ダンスするシーン、あれは脚本にあったんですか」「それこそ満島さんと、二十面相役の森山未來さんに最初に聞いてもらったのがあの場面の曲でした」というのも魅力的です。
 

アスファルト、川、母、子」イサベル・ヤップ/川野靖子訳(Asphalt, River, Mother, Child,Isabel Yap,2018)★★★☆☆
 ――冥界と現世を隔てる川のほとりに住むメブイェンは、多くの乳房を持ち、亡くなった子供たちに乳を与え育てて川野向こう側へ送り出す女神。時代の変化に伴ってメブイェンのところを訪れる子供たちはめっきり減っていたが、そんな中久しぶりにメブイェンのもとにやってきたのは麻薬戦争に巻き込まれて命を落とした三人の子供たちだった。理不尽な死を受け入れられず川を渡ることができない子供たちは共同生活を送りながら互いのことを知ってゆき、一方子供たちを誤って射殺してしまった警官JMは現世で自らの犯した過ちと向き合うことになる。(解説より)

 アジアSF特集。フィリピン出身のアメリカ在住作家。メブヤン(メブイェン)というフィリピン神話の女神がモチーフにされている以外はわりとオーソドックスです。
 

「アジアSFブックガイド」
 

「骨刻」斜線堂有紀
 

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