『S-Fマガジン』2019年4月号No.732【ベスト・オブ・ベスト2018】

 今月の特集は『SFが読みたい! 2019年版』ランキング上位作家書き下ろし&訳し下ろし特集です。

「サーペント」飛隆浩

「戦車の中」郝景芳/立原透耶訳(战车中的人,郝景芳,2017)★★☆☆☆
 ――村はすでにほぼ破壊されていた。突然イヤホンの中で警報器が鳴り響いた。窓の外で機器人《ロボット》の雪怪《シュエグヮイ》が小型機械車と会話していた。偵察車だと言うのなら信じられないことはない。だが機械車は嘘をついた。機械も嘘をつくが、人間ほどうまくない。

 逆チューリング・テストというのは面白いと思いましたが、AIにシミュレーションさせて人間が答えればいいんじゃないかという気もします。ケン・リュウ編『折りたたみ北京』の表題作の著者です。本篇収録の短篇集が邦訳刊行予定だそうですが、むしろ劉慈欣『三体』2019年夏刊行の方が楽しみです。
 

「書夢回廊」円城塔

「銀翼とプレアシスタント(抄)上田早夕里
 

無重力的新世界」高島雄哉★★★★☆
 ――オークションサイトを運営するわたしは、十一人のアーティストとともに月に行くことを決めた。アーティストたちには、月到着までの一週間で新作を作ってもらう。十年前に脳拡張手術を受けたわたしとAIの融合はどんどん進み、何を見ても過去の焼きなおしだと瞬時にわかってしまった。一週間以内に新しい美を見せてくれなければ、シャトルを爆破する。

 第5回創元SF短編賞受賞「ランドスケープと夏の定理」の著者。いきなりデスゲームになる展開には驚きました。作品の肝でもある「新しさ」など実際に提示できるわけもありませんが、デスゲームという緊迫感や、新作作成中の一人一人を訪問していて気づけば一週間経っていたという構成によって、気づけば終盤に差しかかっていました。新しい作品を提示するのではなく、鑑賞者の知覚の方が変わるという結末は、ずるいとも言えますし、逆転の発想が上手いとも言えると感じました。
 

「大進化どうぶつデスゲーム」草野原々

「野生のエルヴィスを追って」石川宗生★★★☆☆
 ――野生のエルヴィス・プレスリーをご存じだろうか。かくいうわたしも、ヒト科エルヴィス・プレスリー属なる分類群があるのを知ったのはつい三年前だ。おおよそ以下の共通点を持っている。ジャンプスーツのような白い外皮。黒いローファー型の足。凜々しい眉毛とつぶらな瞳。リーゼントのような角。ロカビリー調の鳴き声をあげ、リズミカルに腰を振る。このたびの特集では代表的な野生の三種を追跡した。

 第7回創元SF短編賞受賞「吉田同名」の著者。出オチみたいな話ではありますが、エルヴィスに興味のないわたしのような人間にとってみれば、この作品中でも描かれるあの姿しか知らないのは事実ですし、エルヴィスという記号が読者に共有されていなければ作品が成立しないので、むしろあの姿しか知られていないのがいいのでしょう。
 

「SFのある文学誌(63)光学の迷宮、幻想のまなざし――乱歩、牧野信一宇野浩二長山靖生
 

「書評など」
キム・ニューマン『モリアーティ秘録』、ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』、ジェフリー・フォード『言葉人形』など、気になるものはすべて創元の本でした。
 

「一〇〇〇億の物語」樋口恭介

「たのしい超監視社会」柞刈湯葉 特集ではない読み切り。

「折り紙食堂 エッシャーのフランベ」三方行成 特集ではない読み切り。

ミサイルマン」片瀬二郎 特集ではない読み切り。

「アニメもんのSF散歩(27)『ゾンビランドサガ』」藤津亮太
 『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に出てくるのはゾンビではなかったというジョージ・A・ロメロの言葉は、ホラー映画に関心の高い人にはたぶん有名な話なのだろうけれど、わたしは知らなかったのでひとつ賢くなりました。
 

大森望の新SF観光局(66)高山羽根子「居た場所」再訪」

「半身の魚」「必殺!」「二つ折りの恋文が」草上仁 特集ではない読み切り。
 

「アトモスフェラ・インコグニタ」ニール・スティーヴンスン日暮雅通
(Atmosphæra Incognita,Neal Stephenson,2013)★★☆☆☆ ――エベレストの二倍以上、高さ二万メートル。不動産業者に持ちかけられた宇宙タワーとは。(袖惹句より)

 第3位『七人のイヴ』の著者。登場人物に魅力がないのに、私語りから始まるので、終始しらけてしまいました。
 

池澤春菜&堺美保のSFなんでも箱#61 『2001:キューブリック、クラーク』刊行記念トーク採録」ゲスト:中村融・添野知生
 

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