『九人と死で十人だ』カーター・ディクスン/駒月雅子訳(創元推理文庫)★★★★☆

 『Nine --and the Death Makes Ten』Carter Dickson,1940年。

 船上という限定された状況のなかで起こった殺人事件の、真相も実にシンプルで、一つの謎が明らかになると途端にほぼすべての謎が氷解するのが爽快です。シンプルな謎解きがうまく決まった中期の傑作の一つだと思います。

 密航者もいないのに現場に残された指紋の持ち主が存在しないという謎自体にはさほど引き込まれませんでしたが、スパイ疑惑や定番の男女のいがみ合いなどがあるうちに第二の事件が起こるので、飽きさせません。第二の事件で遺書が失われてしまったという不幸な事故が起こりますが、その不幸という意味が、真相が明らかになると違う意味で不幸だったというところが巧いです(※被害者や乗員乗客にとって不幸だったのではなく、犯人にとって不幸だった)。指紋が残された理由にしても指紋そのものにしても、すべてが裏目できれいに整えられていました。

 元新聞記者マックス・マシューズは、兄が船長を務めるエドワーディック号に乗り込んだ。戦時下の英国へ軍需品を運ぶ危険な航海である。二日目の晩、マックスは同船した女性の遺体を発見。外部からの侵入はありえない海の上、殺害現場に指紋が残されており、犯人は網にかかったも同然と思われたが、奇妙なことに船内に該当者はいない……。H・M卿は不可能状況をいかに解くか。(カバーあらすじ)

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