『死者の輪舞』泡坂妻夫(河出文庫)★★★☆☆

『死者の輪舞』泡坂妻夫河出文庫

 初刊1985年。

 カバー型帯が付いていて、イメージキャラクターがなぜか遠藤憲一。でも海方は海亀のような見た目なので、爬虫類顔は実はぴったりかも。

 カバー写真がドミノになっていてタイトルが「輪舞」ということからもわかるとおり、前の事件の容疑者が次々と殺されてゆき、しかもそれがどうやら円環状になっているらしいのです。

 第一の事件の赤い帽子に半袖の被害者という魅力的な謎は、だから比較的早いうちから謎ではなくなってしまいます。

 被害者たちが幸せを感じている最中に殺されるというのも謎めいていましたが、これもさほど意外な理由があるわけではありません。

 大まかに一章で一つの事件が扱われていますが、三人目の被害者立田一圓の死がトリッキーであるほかは個々の殺人自体には大きな謎はなく、輪舞殺人という趣向が作品全体を貫いていて、どのように事件が繋がってゆくのかが見どころです。筋書き通りに単純に円が閉じても面白くありませんが、その点、円環の閉じ方も見事でした。

 海方忽稔《うみかた・ふさなり》刑事という探偵役が風変わりなキャラクターで、性格はクズで探偵法は勘という明らかに駄目そうな人物です。ところがこれが意外なほどにちゃんと名探偵でした。被害者宅のチラシから関係者の存在を見通したり、ベルトの向きから被害者の状況を見抜いたり、時にはクズを装って関係者の心をつかんだり、なかでも白眉は応接室のドアから犯人の指紋が見つかったという報告から真相を見抜く最終章でしょう。幸運をつかむために普段はわざと非道い目に遭っているというエピソードは、まさに泡坂印のキャラクターでした。

 大観衆に湧く競馬レースの最中、男が刺殺された。偶然居合わせた警視庁特犯課の新米刑事・小湊進介はベテラン刑事・海方惣稔とともに捜査を開始。鮮やかな手口からすぐに容疑者の名前が挙がるが、この殺人を皮切りに容疑者が次から次へと殺されていく殺人リレーがはじまり……果たして真犯人が仕組んだ謎を、二人は解けるのか?(カバーあらすじ)

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