『厨師、怪しい鍋と旅をする』勝山海百合(東京創元社)★★★☆☆

 一応のところは斉鎌《せい・れん》という料理人(厨師)が、李桃源《り・とうげん》という男から腹が空くと自分から餌を食べてしまうという鍋を預かり、次の職場を探しに行くまでの旅路で遭遇したあれこれの顛末――というおおまかな流れが採られています。

 とはいえ各短篇に強固なつながりがあるわけではなく、鍋もさしてストーリーに絡むでもなく、一人の料理人が共通しているだけで、あとは著者得意の中華奇譚の掌篇が連なっているという印象でした。だから連作というよりは、デビュー短篇集の『竜岩石とただならぬ娘』のような純粋な短篇集に近い感触です。

 もともとが著者の得意な作風ですから、個々の短篇としては良いのですが、長篇の読みごたえを期待していたので物足りなさが残りました。

 優れた厨師を輩出することで有名な斉家村に生まれた見習い料理人・斉鎌は、ある日見知らぬ男から不思議な鍋を借り受ける。しかしそれは煮炊きをしないでいると腹を空かして動物や人間を襲い始める、とんでもない鍋であった。鍋を返すまで故郷に帰ることは叶わない――流浪の身となった斉鎌は、鍋とむらに代々伝わる霊力を持った包丁を頼りに、戦場の飯炊き場、もののけの棲み家、名家の隠居所などで腕を揮いつつ、鍋の元の主を捜し歩くが……日本ファンタジーノベル大賞受賞者による中華ファンタジイ。(カバー袖あらすじ)

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