『ゴーグル男の怪』島田荘司(新潮文庫)★★★★☆

『ゴーグル男の怪』島田荘司新潮文庫

 解説にもあらすじにも一切書かれてはいませんが、2011年のNHKドラマ『探偵Xからの挑戦状!』の同名原作をもとに加筆して長篇化したものです。

 ドラマ原作集に収録されていた短篇の方は、何が何でも奇想を見せちゃる!という著者の意気込みが微笑ましい作品でしたが、長篇化された本書では、ゴーグルのなかの爛れた皮膚の根拠(ミスディレクション)となる原発企業と少年の半生のストーリーがたっぷり挟み込まれることで、真っ赤に爛れた目にゴーグルをつけて出没する怪人物という謎の設定にドラマと説得力が生まれていました。

 目から血を流したようなゴーグル男が目撃された直後、煙草店で老婆が殺されているのが発見される。現場には黄色いマーカーでラインを引かれた五千円札が落ちており、さらには両切り煙草がばらまかれていた。

 そのころ町では二か月前の核燃料製造会社で起きた臨界事故の噂が流れていた。作業員二人が被曝して亡くなり、監督に当たっていた社員は鉛のスーツを着ていたから無事だったが目だけは守れず、皮膚が再生できずに血を流して爛れているのだという……。

 森にある秘密基地で男に犯されてから「ぼく」の人生はおかしくなってしまった。幽霊を見るようになり、家族との関係もうまくいかなくなり、女性に興味もなくなってしまった。母親からもあの男と同じ匂いがした。あのとき川から上がったばかりでゴーグルをしていたせいだろうか、幽霊が見えるのはゴーグルをしたときだ。長じてから都会で就職しようと思ったが、受かったのは母親も勤めていた地元の核燃料製造会社だけだった。そこで知った。あの男の正体を……。

 煙草屋ばかり三軒、黄色いラインの入った五千円札、目撃されたゴーグル男――これらの共通点は何を意味するのか、一軒の老婆が殺されて他の二軒の老婆が殺されなかったのはなぜなのか、ド派手な謎もいいのですがこういう現実臭さのある謎の組み合わせも、作り物っぽさがなくてまた違ったわくわく感があります。

 現実にはどうだかわかりませんが、煙草屋と老婆がセットになっていることに違和感を感じないくらい、煙草屋と老婆というイメージは定着していて、それが上手に用いられています。【実際に用があったのは煙草屋ではなく老婆の方】だったというのを隠すのには最適の職種でした。

 同じように、煙草がばらまかれていた理由も、【ばらかまれていた煙草ではなく容器の方にあった】という逆転の発想が用いられていました。ちなみに核燃料製造会社では完全禁煙だという事実が、ゴーグル男と煙草屋に関係がありそうな疑いを強めているなど、煙草屋がらみだけを取ってみても、近年の著書(といっても2011年の作品ですが)にしてはかなり丁寧に作り込まれていました。

 ゴーグル男の正体は、それだけ見れば滑稽です。そんな滑稽さを覆い隠してしまうくらいに、「ぼく」の物語が生き生きとしていました。精神を病んじゃった人の半生なのに、嫌悪感は感じません。著者の描く駄目人間って、自業自得なところも結構あるのですが、本書の語り手の場合は完全に被害者であることも大きいでしょうか(妹にひどいことをしているので完全な被害者とも言い切れないのですが)。反原発を声高に唱えていないのもいい。

  


防犯カメラ