『夏、19歳の肖像 新装版』島田荘司(文春文庫)★★☆☆☆

夏、19歳の肖像 新装版』島田荘司(文春文庫)

 昭和!

 青春の甘酸っぱさよりも、昭和のおっさん臭さを感じてしまいました。実際、三十代の男が十五年前を回想しているという設定なので、おっさん臭いのも仕方ありません。

 入院中に窓の外の家を覗き見るという「裏窓」趣向で幕を開けます。暴力をふるう男と、庖丁を持ちだしてきた美女――。美女は夜中に何かを埋め、やがてその家に弔問客が訪れた……。

 定番の裏窓パターンとはいえ、やはり定番は強い。冒頭はよかったんです。。。

 若い男が美女に目を奪われるのはわかります。けれど病院を出たあとで、喫茶店に聞き込みに行ったり、勤め先を突き止めてバイトに潜り込んだりするのは、ちょっとやりすぎで、若者ならではの無謀さや行動力というのを割り引いても、ドン引きでした。マスターへの探りの入れ方がストレート過ぎて下手くそなのは、若者っぽくて笑っちゃいましたが。

 せめて偶然再会できたとかにすればよかったのに。

 極めつけは、つきまとっていたことを打ち明けられた本人が怯えるのを、なぜ怯えるんだろう?と疑問に感じるところで、これは若さ云々とは無関係にどう考えてもサイコパスでした。

 ところがなぜか相手の美女・理津子も青年を受け入れてくれました。ご都合主義です。

 理津子の母親が男を寄せつけようとせず、理津子も母親の束縛から逃れようとするものの、理津子を取り返しにヤクザまで現れます。

 理津子は本当に父親を殺したのか? 母親が理津子から執拗に男を遠ざける理由は? ヤクザと理津子の関係は?

 真相はとても陳腐です。【※暴力をふるっていたのは父親ではなくパトロンだった。生まれた子どもが死んだので発作的に暴力をふるっていただけだった。埋めたのは赤ん坊。葬式も赤ん坊のもの。ナイフはたまたま果物の皮むき中だった。】夢見る19歳にとっては衝撃なのでしょうが、ミステリ読者は驚けません。それより何より、衝撃的だったのは母親がこだわっていた理由でした。一軒家の持ち家が幸せの象徴って……! 平成も終わり令和にもなっては成立し得ない、昭和かぎりの動機でした。

 せっかくの回想形式なのだから、もっと冷めた視点で描いてくれたらよかったのに、なまじ回想形式にしたせいで青年期を過ぎて中年になってもナルシスティックな変人みたいでした。

 でもいいところもありました。ヤクザの別荘にバイクで乗り込んでの大立ち回りは格好良く、いくら広いとはいえ屋内でのバイクという無理のある設定すら、むしろ所狭しと疾駆するためには必須とすら思えるほどです。やはり島田荘司にとってバイク=馬であり、ライダー=騎士なんでしょうね。すぐに捕まっちゃったのがもったいない。島田荘司には、一作くらいバイク小説を書いてほしいなあ――と思える格好良さでした。

 バイク事故で入院中の青年が、病室の窓から目撃した「谷間の家」の恐るべき光景! ひそかに想いをよせる憧れの女性は、父親を刺殺し工事現場に埋めたのか? 退院後、青年はある行動を開始する――。青春の苦い彷徨、その果てに待ち受ける衝撃の結末! 青春ミステリー不朽の名作が、著者全面改稿のもと新装版として甦る。(カバーあらすじ)

  


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