『氷菓』米澤穂信(角川文庫)★★★★☆

氷菓米澤穂信(角川文庫)

 『You can't escape』2001年。

 古典部シリーズをまとめて読もうと思ったものの、設定を忘れていたので第一作を読み直しました。

 現在は英題が『The niece of time』に変更されているそうです。「時の娘」ならぬ「時の姪」、真理は時が歪めてしまうこともあるようです。

 省エネがモットーの高校一年生・折木奉太郎が、外国を飛び回っている姉からの手紙によって廃部寸前の古典部に入部したところ、部員ゼロの古典部に「一身上の都合」で入部していた同じく一年生・千反田えると出会います。

 好奇心の塊である千反田に押し切られるようにして、省エネの奉太郎は出会った謎に取り組まざるを得ません。

 千反田しかいない部室に鍵が掛けられていた謎、毎週金曜日に図書室から学校史が借りられその日のうちに帰される謎、元部室にあるはずの古典部文集のバックナンバーを壁新聞部が渡そうとしない謎。

 柄になく省エネ奉太郎に興味を持って古典部に入部した友人の里志と、里志に片想いで「完璧主義者」の摩耶花も古典部に加わって、千反田の「一身上の都合」の謎を解き明かすために力を合わせることになります。

 現在は行方不明になっている千反田の伯父・関谷純が高校生だった三十三年前に起こったこと。どうやらそれがきっかけで関谷は退学し、幼いころに当時の話を聞いた千反田にもそのときの記憶を消してしまうほどの衝撃を与えたようなのですが……。

 過去の事件を解き明かすため、それまで奉太郎の推理能力披露のためのエピソードに過ぎないと思われた、学校史や壁新聞にふたたび焦点が当てられるところなど、作品全体の構成としてよく考えられています。

 最初に奉太郎が組み立てた推理は、表向きの事実の流れとしては間違ってはいませんでした。それこそ史書や新聞に書かれるのであればそうした上っ面だけでも充分でしょう。

 けれど歴史書的記述からは抜け落ちてしまう声がありました。

 その声を封じたのが、集団の悪意――というよりは、後ろめたさをごまかすための「犠牲」を欲する集団心理でした。

 そしてタイトルの意味が明らかになり、解決編は幕を閉じます。

 無念の声なき声をあげるしかなかった悔しさが滲み出ていました。

 太刀洗シリーズの方を先に読んでいた身としては、明らかにされた真相の性質や、姉の手紙の一通がユーゴスラヴィアから出されているところに、通ずるところを勘繰ってしまいました。

 いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実――。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場! 期待の新星、清冽なデビュー作!!(カバーあらすじ)

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