川上弘美による児童文学。
クラスメイトとはうまくつきあっているけれど、本が好きなことは隠している小学四年生の鳴海さよ。エキセントリックで嫌いなものが多い母親にも図書館通いを隠しています。離婚した父親をときどき恋しく思います。
意図せず他人を見下す言動を取りクラスでも浮いていている同級生の仄田くん。大人びているようでいながら、その実おばあちゃんに甘やかされて育った幼稚な子どもです。
さよは図書館で見つけた『七夜物語』というファンタジー小説に夢中になりますが、それはいったん本を閉じると読んだ内容を忘れてしまう不思議な本でした。定時制高校に通う麦子と南生に誘われて「くちぶえ部」に入部したさよは、仄田を連れて高校に向かいますが、金網を越えて入った先は学校ではなく夜の世界でした。エプロンをした巨大なねずみグリクレルを見て、そこが『七夜物語』の世界だとさよは気づきます。グリクレルによる試験をクリアした二人は、それから七夜にわたって現実とリンクした世界を行き来することになります。
アリスの世界めいた最初の夜は面白く、そこを入口にしてどんな冒険の世界に踏み込んでいくのかとと思ったら、全然そういう話ではありませんでした。それぞれの夜の世界で自分と向き合う話です。
第四章「二つの夜」で仄田が自分のコンプレックスと延々と向き合う(でも本人はなかなか気づかない)のが、あまりにも長くてうんざりしてしまいました。子ども的には冴えない仄田が無双するのが少年漫画の主人公みたいに見えるのかもしれません。
ほかの夜もだいだいそんな感じで、わりとストレートに現実の問題と向き合っていて辛気くさかったです。
最後の最後まで仄田は根っこがクズなのが可笑しかったです。
小学校4年生のさよが図書館でみつけた『七夜物語』は、読んだはしから内容をすっかり忘れてしまうふしぎな本。さよは、物語にみちびかれるように、同級生の仄田くんと「夜の世界」へ迷いこみ、グリクレルという料理上手の大ねずみから皿洗いを命じられることになる。(上巻カバーあらすじ)
夜の世界で若き日の両親に出会ったさよと、自分そっくりの「情けない子」に向き合った仄田くん。この冒険がどこかで現実とつながっていることに気がついたふたりは、元の世界を守るため、あらゆるモノを夜の世界へ連れ込もうとする「ウバ」とたたかうことになり……。(中巻カバーあらすじ)
グリクレルの台所でさくらんぼのクラフティーを食べながら、忘れられない夜を過ごしたさよと仄田くん。やがて最後の夜を迎えたふたりは、夜の世界の住人たちを「ばらばら」に壊そうとする力と対決する。そして、七つの夜があけると――。(下巻カバーあらすじ)
[amazon で見る]
上 中 下