『クドリャフカの順番』米澤穂信(角川文庫)★★★☆☆

 『Welcome to KANYA FESTA!』2005年。

 ついに部誌の文集『氷菓』が完成し、初期三部作も文化祭とともに幕を閉じました。

 古典部員は「カンヤ祭」の名称を使わないことにしているはずですが、英題が「KANYA FESTA」となっているところからすると、『氷菓』販売により「カンヤ祭」の由来が一部の生徒にも知られることで一応のケリはついたということなのでしょうか。現在までのところシリーズ中で唯一、英題が海外ミステリのもじりではありません。もじるとしたらアレしかないわけで、そうなるとひねりも何もなくなってしまうというのもこの英題になった理由の一つだろうと思います。

 初期三作のなかではもっとも日常の謎らしい作品でした。何しろ今回取り組んでいるのは、手違いから刷り過ぎてしまった文集をさばけるのか――という問題です。各々が文集を売るつてを探しているうち、参加団体のあいだでものが盗まれ犯行声明が残されるという事件に遭遇し、事件を利用して文集の宣伝を計画します。

 『ABC殺人事件』、わらしべ長者のほか、変則的なタイムリミットものになっていました。章の終わりにはタイムリミットならぬ残り部数がカウントされていて、『暁の死線』以上にゆるいリミットではあるのですが、当人たちにとっては切実な問題なのでしょう。

 本書は古典部四人の多視点が採用されており、各者各様の文化祭が描かれていました。本書の魅力は事件云々より、何といってもこの文化祭の楽しさにほかなりません。特に里志パート(の主に前半)は文化祭のイベントを楽しんでいるだけなのですが、それだけにお祭りというものの楽しさがダイレクトに伝わって来ました。クイズ大会に料理大会、勝手にライバル視するクラスメイト――。制限時間内に限られた食材で料理を作らなくてはならない料理大会のサスペンスには笑ってしまいましたが、文化祭のイベントでサスペンスを作り出せてしまえる作者の力量には舌を巻きました。

 伊原は漫研のイベントで忙しく、古典部にはほとんど参加できず、漫研の人間関係もあって落ち込み気味でしたが、漫研の先輩とは舌鋒鋭く議論をし、料理大会では見事な機転を見せるなど、ある意味いちばん活躍していました。

 奉太郎が店番、里志は宣伝係、伊原はほぼ漫研専従となってしまったため、千反田はどう考えても向いていない交渉を担当することになりました。当然のことながら小細工などできないので、真っ向から交渉(?)して撃沈すること多々。前作で登場した入須からは怪しげな交渉術を教わります。

 多視点が採用されたため、里志の伊原に対する感情が明らかにされていたりするなど、新しい展開も見えていました。

 ミステリとしての肝である盗難事件――残された犯行声明に「十文字」の署名があったことから十文字事件――に関しては、弱い、というより無理筋でした。事件を起こす必然性、事件に込められたメッセージ、姉の介入(アドバイス)、どれを取っても強引です。関係者にしかわからないメッセージだからこそ、逆算して犯人を特定できたとはいえ、姉の介入なくしては解決できず、しかも姉にはハートのブローチを欲しがるわらしべの必然性がありません。

 魅力的なタイトルですが、作中作の名前なので、意味はありません。【※その作中作をなぞった事件が起こっている】ということを考えれば、それをタイトルにするのは相応しいと言えますが。

 待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲――。この事件を解決して古典部知名度を上げよう! 目指すは文集の完売だ!! 盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は事件の謎に挑むはめに……。大人気〈古典部〉シリーズ第3弾!(カバーあらすじ)

  


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