『カルカッタの殺人』アビール・ムカジー/田村義進訳(早川書房ポケミス1945)★☆☆☆☆

カルカッタの殺人』アビール・ムカジー/田村義進訳(早川書房ポケミス1945)

 『A Rising Man』Abir Mukherjee,2017年。

 インド系イギリス人による、英国統治下のインドを舞台にしたミステリです。

 主人公はイギリスから赴任したばかりのウィンダム警部と、彼が目を掛けるインド人部長刑事バネルジーです。

 本文はウィンダムの一人称なのですが、これが大失敗。右も左もわからない人物視点にすることで読者にも1919年のカルカッタに徐々に馴染んでもらおうとしたのでしょうが、余所者が我が物顔をしているという効果しか生んでいませんでした。

 上に立つ者の一人称ということで警察小説とは違いますし、バディものというには上下関係がありすぎます。さりとてハードボイルドというには一本筋の通った主義を持っているわけでもありません。

 何よりもこのウィンダム、人間としての魅力がなさすぎます。戦争の傷から快復しかけたタイミングで妻を亡くして事件そっちのけでうじうじと回想していたかと思えば、被害者の秘書の美脚に鼻の下を伸ばしまくり。同僚が先に手がかりを見つけたと知ってショックを受ける心の狭さ。現地人を見下して当たり前の時代背景のなかでウィンダム自身はどう考えているのかなかなかわからない(でも美人秘書が差別されると怒る)。インド人虐殺を目の当たりにしたことで同じインド人としてこれ以上は体制側の人間として働けないと言って辞表を出す部下に対し、「当然だ」と共感しながらも、直後に「(迷っているのは)いい兆候だ/考えなおすよう説得できる余地があるということだ」と心情ガン無視のことを考えられるサイコパスです。これに限らずいちいち余計な一言が多くて癇に障ります。

 捜査ももたもたして進まず。二〇世紀初頭のインドの様子もさしてしっかり描き込まれているわででもなく。

 被害者の造形もひどいです。いや、そんなキャラじゃなかったでしょう? いきなり【ネタバレ*1】と言われても……。それでもなおピント外れの推測をした挙句、犯人自身からばらされてようやく犯人に気づくというお粗末さでした。

 1919年、英国統治下のカルカッタスコットランド・ヤードの敏腕警部ウィンダムは、第一次大戦従軍を経て妻を失い、倦み疲れてインド帝国警察に赴任した。右も左もわからぬ土地で頼みの網は、理想に燃える若く優秀なインド人の新米部長刑事バネルジー。二人は英国人政府高官が何者かに惨殺された事件を捜査する。背後には暴動寸前の現地の憤懣と暗躍する諜報機関の影が……東洋の星と謳われた交易都市を舞台に、複雑な政情を孕む奥深い謎と立場を超えた友情が展開する、英国推理作家協会賞受賞の傑作歴史ミステリ(裏表紙あらすじ)

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*1 悪事を止めさせようと説得しようとして返り討ちにあったのだ――

*2 

*3 


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