『推理は一日二時間まで』霧舎巧(光文社)★★☆☆☆

『推理は一日二時間まで』霧舎巧(光文社)

 霧舎巧の現在のところ最新作、なのかな。(コスプレゆえのトリックを除けば)設定の面白さが活かされていないし、いくら日常の謎とはいえみみっちい真相が多いのもがっかりでした。
 

「推理は一日二時間まで」(2014)★★★☆☆
 ――都内某所に秘密基地をレンタルしている会社がある。レンタルスペースを「秘密基地」と称して募集をかけたため、借り手はヲタクばかりに集中した。オーナーの美貴に好意を寄せる戦隊イエロー。何でもテレビドラマになぞらえる〈テレビさん〉。〈勇者〉は剣を振り回して交番に連れて行かれてしまった。オーナーのパソコンをハッキングしている人物を見つけるため、こどもパソコン相談室の土佐垣さんに相談したところ、防犯カメラに不審な人物が映っていた。土佐垣さんはパソコン相談室に「ママから推理は一日二時間までと言われています、どうしてですか?」と書き込んでいた名探偵にたずねてみた。

 推理は一日二時間までに制限されている子どもという設定もさることながら、探偵はパソコンの向こうにいて、探偵自身が推理を説明するのではなく、事件関係者が探偵に聞いた話という形で説明をおこなう、いっぷう変わった安楽椅子探偵ものです。トリック自体はかなり単純なものですが、それを利用したユニークな窃盗方法が印象的です。
 

「家に帰るまでが誘拐です」(2014)★★☆☆☆
 ――〈勇者〉と同じゲームマニア集団の〈ナイト〉が父親の建築会社に割安で看板を作ってくれることになったが、行き違いから〈秘密基地〉ならぬ〈秘密キッチン〉でデザインされてしまったと聞き、〈ナイト〉に秘密基地の店番を頼んで建設会社に向かった美貴。美貴の留守中にゴスロリが〈ナイト〉を連れて立ち去ってしまった。目撃した気功〈キコじい〉によると、二人は手に手を取って「家に帰るまでが誘拐です」と口にしていたという。

 一話目、二話目、ともにコスプレ勢が集まるような空間だから可能な犯行でした。そして二話ともにみんなあっさりおびき出され過ぎなのも笑えます。コスプレとはつまり、原理的には「見えない人」と同じということになります。
 

「凶器は一人三百円まで」(2015)★☆☆☆☆
 ――女性が雪でうさぎを作ってと声をかけ放火をする雪うさぎの都市伝説。放火犯が怖いから泊まってほしいというのは美貴のでまかせで、黄色さんと勇者とテレビさんに雪かきをさせるのが目的だった。だが配達に来た三百円ショップの店員〈サンコイン〉のかばんに、放火を連想させる持ち物が入っているのを目にして……見て見ぬ振りをした。一方〈レッド〉と〈ブルー〉はそれぞれゴスロリから雪だるまを作ろうと声をかけられついてゆくと……。

 これもゴスロリと記号化することで人物誤認を誘っていますが、そのせいで真相がわかりづらくもなっています。というのも雪うさぎ自体は事件に関係なく、ただ現場に誘導するための(「赤い絹のショール」のオレンジの皮のような)道具でしかないことや、サンコイン・霧舎学園にも登場する倉崎昨夜子・真のゴスロリの三人の女性が登場することなどが、ややこしさに輪を掛けています。そのわりに真相がしょぼく【※ネタバレ*1】、そのくせ説明も駆け足なのでますますわかりづらくなっています。
 

「尾行時はお友達と一緒につけましょう」(2015)★☆☆☆☆
 ――若い女性が〈秘密基地〉を訪れた。誘拐事件の被害者が、助けてくれた〈キコじい〉に感謝を伝えに来たそうだ。だが〈キコじい〉は全話の事件以来サンコインの女の子とともに消息を絶っていた。行方をさぐるため〈キコじい〉とサンコインが暮らしていた家を見張っていた〈レッド〉から連絡が入るものの、すぐに電話は切れてしまった。サンコインを見つけて尾行を始めたのだろうか。

 一応は前話でサンコインがキコじいを外に放置した理由について補足されています。前話に引き続き、第二話の犯人が黒幕みたいなポジションで(しょぼい)復讐を企んでいますが、しょぼすぎてギャグなのかどうかもよくわかりません。事件自体も蓋を開けてみれば、しばらく別の場所で暮らしていたキコじいのところに行くサンコインを尾行したというだけの話でしかありませんでした。
 

「推さない、懸けない、拉致らない」(2015)★★☆☆☆
 ――〈TOさん〉が巡査に伴われて交番へ向かった。TOとはトップ・オタの略だ。〈キコじい〉によれば、前日〈TOさん〉は「動画が先」という謎の言葉を残していた。〈TOさん〉はネット上で「一人のアイドルだけを推すな。アイドルにすべてを懸けるな。惚れてもアイドルを拉致るな」という標語の発言者だとされていたが、一つ目と二つ目は〈TOさん〉の活動とは正反対だ。誰かが〈TOさん〉を陥れようとしているのではないか。一と二に矛盾した行動を取る人間なら、三と矛盾した行動を取ってもおかしくないと……。

 いかにもミステリ的な極論のロジックは魅力的ですが、これも前話同様、結局事件も何もなかったというのではつまらないままです。
 

「犯人って言った人が犯人」(2016)★☆☆☆☆
 ――オーパーツサークル〈弾丸髑髏〉の兄弟が、自殺現場にあるショーコーセキを見つけるため探偵の連作先を教えろと凄んできた。ジャージに着替えさせられた〈黄色〉が、探偵の安全のため兄弟を尾行することになり、残った美貴たちは自分たちでショーコーセキの謎を解くことにした。そんなとき、〈黄色〉から倉庫に閉じ込められたと連絡が入った。

 最後も衣装による人物誤認が扱われていました。黒幕によるしょぼい誘導も相変わらずです。そして探偵の正体が明らかになりました。今まで姿はおろかメールの文章すら明らかにされていなかったわりには、たいしたひねりもなくあっさりと明かされていました。壮大ならぬ卑小な自作自演。「ママに推理は一日二時間までと言われています」という相談は、探偵の存在を美貴たちに気づかせるために書き込んだもの、ということでいいのでしょうか。「二時間まで」という設定が何の意味もないのは致命的です。この最終話でこそ眠りこけている人物が登場しましたが、これまでの五話で不自然に眠ったり姿を消したりするような探偵を特定する手がかりがあったわけでもないですし。【ネタバレ*2】――というのは、〈秘密基地〉が舞台だと考えれば面白いギャグなのかな? 一人悪の組織。そのうえ【ネタバレ*3】。

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*1 前話の犯人が目撃者の〈キコじい〉に復讐するため〈キコじい〉の愛人サンコインの女の子を巻き込んで脳震盪を起こさせたが殺したくはないので早めに見つけてもらうために発見者を現場に誘導した。

*2 これまでの話で黒幕の手先だと思われていた人物が実は黒幕本人だった

*3 一人モリアーティ=ホームズ


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