『放課後探偵団2 書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー』青崎有吾・斜線堂有紀ほか(創元推理文庫)★★☆☆☆

『放課後探偵団2 書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー』青崎有吾・斜線堂有紀ほか(創元推理文庫

 『Highschool Detectives II』2020年。

 新鋭による学園ミステリ『放課後探偵団』、10年ぶりの第2弾です。ほとんどが未読の作家でした。第一集とは違い、五人中四人が女性作家で、その四人ともが創元組ではない等、第一集よりもバラエティに富んでいました。初版本には五人のサインの印刷されたイラストカードが封入されていました。斜線堂氏のサインの斜線の部分が/になっていたり、辻堂氏のサインのちっちゃい「じど」が可愛かったりと、サインだけでも個性が出ていました。
 

「その爪先を彩る赤」武田綾乃 ★☆☆☆☆
 ――演劇部から赤い靴が無くなったので、原因を調査して欲しい。目安箱にあった要望の対処を副会長から指名されて、僕は屋上に向かった。屋上にいる久津跡愛美がトラブル解決の助けになるというのだ。「愛美さんは謎解きが得意なんですか?」「薫さんは多重人格という言葉をご存じ?」「……」「靴を履き替えると性格が変わるんですの、私」。赤い靴紛失を知っているのは部長たち幼なじみ三人と主演の後輩の四人だけであり、保管してある金庫の暗証番号を知っているのもこの四人だけだという。

 多重人格探偵というふざけ倒したギャグキャラが受け入れられない年齢になってしまいました。ちょっとでも棚から荷物がはみ出していたら没収する生徒会というこれまたネタ設定も、不自然すぎて伏線として機能していないでしょう。【主演女優が練習で履いてヒールを折ってしまい、副部長がいったん箱に入れて置いておいたところ、ほかの二人が散らかしっぱなしの副部長の荷物を棚に仕舞い、生徒会が棚からはみ出た没収していた】という風が吹けば的というかピタゴラ装置的というかな真相は、不自然なところが一箇所あるとすべて台無しになってしまいます。
 

「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」斜線堂有紀 ★★★☆☆
 ――部誌が刷り上がったのは文化祭当日の朝だった。野上と千崎がギリギリまで上げなかったせいだ。ゆかりは先日ミステリー新人賞で見事に受賞を果たした。私の小説は誰かを楽しませられるだろうか? 私にしか書けない特別なものだろうか? 部長の穂鷹先輩だけは小説ではなく彼オリジナルの辞書の一部を掲載していた。部誌は八十二冊売れた。翌朝、遙香さんからメッセージが送られてきた。『誰か、ゆかりのこと知らない?』。私たちは全員で部室に行った。チョークの粉の中、ゆかりが机に突っ伏していた。後頭部に赤黒い染みが出来ていた。

 タイトルに殺人と書かれてはいますが、ごく普通の学園小説のような和気あいあいとしたノリの作品だったので、実際に殺人が起こったときには驚きました。殺人という重さに対して、思春期特有の不安定な自己意識による動機は釣り合わないように感じるのですが、高校生のころはわたしも自己探索が世界中の何よりも重要だったのかなあ……覚えてません。高校生のころに読みたかった作品です。【時限装置の風船を隠すという古典トリックのためではあるものの】チョークの粉がばらまかれた現場にセンスを感じます。
 

「黒塗り楽譜と転校生」辻堂ゆめ ★★☆☆☆
 ――指揮者の小笠原の熱意をよそに、合唱コンクールの練習はバラバラだった。新しいクラスのまとまりのためというのなら、なにも合唱コンクールでなくともよいのではないか。教室に保管してあった楽譜の同じ部分がすべて黒塗りにされていて、その日の練習は中止になった。ところが変人でマニア癖のある畠山宗四郎が、探偵気取りで犯人を見つけるべきだと言い出した。仕方なくアリバイのない帰宅部の六人が居残った。

 そもそも勝手に首を突っ込むおせっかいな探偵という存在のパロディだとしても、オタクが名探偵ぶってクラスを仕切り出すのは寒い寒い。付き合ってあげるクラスメイトも立派です。それはそうと淡い恋愛未満が動機【※自分の持ち物である楽譜の原本にふと書き込んでしまった指揮者への恋心がコピーで裏写りしていることに気づいて黒塗りし、廃棄することに成功。後日、裏写りしないように一面黒く印刷した裏紙を当てて新しくコピーした楽譜を配布した】となっているのは学園ミステリらしくいじらしい。犯人に迫る論理が印刷機のインク量云々なのはこじつけめいていましたが。英題が『Highschool Detectives II』にもかかわらずこの作品の舞台は中学校ですが、ちゃんとHighschoolが無関係なわけでもありませんでした【※「前の高校」という言葉から留年疑惑が生まれたが実はアメリカのHighschoolからの転校だった】。いかにも犯人めいた怪しい登場人物の怪しい言動が、【帰国子女であることとそれを隠そうとすること】から生まれたものだった、というのも十代っぽい屈託を感じられます。
 

「願わくば海の底で」額賀澪 ★☆☆☆☆
 ――三月十一日から五年たった。菅原先輩はあの日以来ずっと行方不明のままだ。実家に帰る途中、五年ぶりに藍先輩に会った。後部座席には知らない男性が座っていた。三浦というその男性は、五年前に震災で行方不明になった祖父を捜しにきたという。生きているとは思っていない。ただ当日の足取りを知りたい、最後の場所を見てみたい――と。五年前、菅原先輩と藍先輩はさっさと付き合ってしまえばいいのに、と思っていた。

 高校よりも震災がメインなのに、内容は少女漫画めいた内的世界です。思春期のうじうじを震災の喪失感をダシにして置き換えているようでモヤモヤしました。【実は語り手と菅原先輩と三浦の祖父が現場にいて、語り手が原付で三浦祖父を轢いてしまい、救急車を呼びに行くも震災でみんなそれどころじゃなく右往左往しているうちに残された二人は津波に呑まれた……】という真相は、そりゃ実際そういうこともあったでしょう、としか言えません。
 

「あるいは紙の」青崎有吾 ★★★☆☆
 ――「格技場裏の吸い殻をやります」向坂が一人でひっぱっている新聞部で、僕の仕事はしいて言うならアクセルに対するブレーキ役だ。吸い殻を記事にするとなれば、犯人を探して追求する形になる。面倒なことになるのでは。それでも隔週で新聞を出し続ける。だって向坂がやりたがるから。吸い殻の目撃情報から、犯人は中休み中に吸っていると推測できた。そういうわけで張り込みをしている。板塀の下の隙間から見えたのは、ジャージとスニーカー。生徒ではない。教師だ。

 裏染天馬シリーズの一篇。新聞部の副部長・倉町剣人が語り手を務めます。犯人や犯行方法を推理するのではなく、しらばっくれる教師の噓を暴くための手段がカギとなっています。はからずも「黒塗り楽譜と転校生」と【裏写り】がカブっていましたが、部長の向坂香織に対する思いから、裏染に頼らず自力で何とかしようとする倉町が主人公なので、このくらい単純な方が説得力がありました【※吸い殻を捨てた場所と携帯灰皿を落としたことをつい口走ってしまった教師が、新聞部の取材記録で見たと誤魔化したが、模造紙の裏表に書き込んで窓に貼ってあった取材記録は、教師が新聞部を訪れた時間帯には朝日で裏写りして文字が読めない状態だった】。

 [amazon で見る]
 放課後探偵団2 


防犯カメラ