とてもいびつなのに実は隅々まで計算され尽くした作品でした。
主人公は宇宙に憧れているのに宇宙飛行士ではなくエンジニアを目指しています。確かに考え方としてはありかもしれませんが小学生の発想とは思えません。
過去に何かあったらしいとはいえ、同級生ともなじめず両親のことも跳ねつけ友人にもキレ出し、反抗期や性格のせいで済ませられるようなものでもありません。天才には発達障害の傾向が一定数あると言いますが、スルーすべきところでわざと突っかかったり歩み寄るべきところでスルーしたりと、子どもだからではなく情緒に問題がありそうです。
終盤になりようやく過去にあった出来事が明らかになりますが、どう言い訳しようと主人公も悪いよね、としか感じられません。なのに自分は悪くないとばかり……。
それが――。
ある事実が明らかになることで見え方は一変します。
独特の会話文は必然でした。エンジニアを目指しているのも必然でした。鳴沢にひどい言葉をぶつけたのにもそれなりの理由がありました。同級生となじんでいないのにも、過去に事件を起こすまでの経緯にも、一定の事情はありました。
もちろんだからといって主人公が困った奴であることに変わりはありません。
それは変わりませんが、それを言うなら本書が、少年が夢を叶えるべく宇宙を目指し、心を閉ざしている少年少女が成長する爽やかな物語であることも変わりはありませんし、固定観念を覆される優れたミステリであることも変わりはありません。
黒か白かで割り切れない様々なものが最後まで煮込まれた作品でした。
将来、NASAのエンジニアになりたい小学六年生の佐倉ハルくんは、風船宇宙撮影を目指しています。できる限り大人の力を借りず、自分だけの力で。そんなことくらいできないようでは、NASAのエンジニアになんて到底なれないから、と。意地っ張りな性格もあってクラスでは孤立、家に帰っても両親とぎくしゃくし、それでもひたすらひとりで壮大な目標と向き合い続けるハルくんの前にある日、金髪の転校生の女の子が現れて……。
ハルくんの、夢と努力の物語。奮闘するこの少年を、きっと応援したくなるはずです――読み終えたあとは、もっと。(カバー袖あらすじ)