『私立霧舎学園ミステリ白書 五月はピンクと水色の恋のアリバイ崩し』霧舎巧(講談社ノベルス)★★☆☆☆

『私立霧舎学園ミステリ白書 五月はピンクと水色の恋のアリバイ崩し』霧舎巧講談社ノベルス

 霧舎学園シリーズ第二作。

 各月の事件に「本格ミステリで用いられる謎を一つずつ取り上げていく」という方針に従い、四月の「密室」に続いて本書は「アリバイ崩し」です。

 ようやく生徒用のメールアドレスを付与された琴葉は、ゴールデン・ウィーク中にもかかわらず棚彦を誘って学校のパソコン教室を訪れていた。「ピンクと水色の天使」を名乗る人物から、「ピンクのハートを水色の矢で貫く」恋の成就の伝説にまつわるメールが届いた。直後、パソコンがフリーズした。すると朝からいたらしい保が顔を出し、サーバーを確認しに準備室に入ると、そこには全身をピンクのペンキで塗られ、胸に水色の矢を刺さされた全裸の女性の死体があった。

 そこにスポーツ・芸術クラスの遠波直人(アイドル「エミュー」のボーカル・ナオキ)が飛び込んできた。同級生のグラビアモデル田中弓絵から自殺するというメールが届いたため急いで駆けつけたのだ。だが弓絵はそのころ直人の父親とCD特典の撮影の準備をしており、死体は弓絵のマネージャー天塚双葉だった。

 校舎の壁にはピンクのハートを水色の矢が射抜いた絵がペンキで描かれていたこともあり、メールの伝説と殺人事件との関連性も疑われたが……。

 アリバイ崩しといってもガチガチのアリバイものではありません。保たちがパソコン教室にいた時間帯と死体に塗られたペンキの乾く時間から、犯人が準備室にいた時間帯を割り出す流れは、通常の謎解きの範疇で、アリバイものの面倒くささは感じません。校舎の壁に描かれたハートの写真撮影時刻によって容疑者のアリバイが成立するものの、そもそも強い動機やロジカルな推理によって容疑者と目されたわけでもないので、アリバイ崩しも飽くまで捜査の一環という感じでした。

 アリバイ自体は【ネタバレ*1】古典的なものでしたが、【ネタバレ*2】トリックは単純ながら独創的で面白く、事件自体がペンキ塗りづくしだったこともあり、何かを描くという点で統一感が出ていました。保が影の長さや角度を検証して問題ないと結論づけているため、トリックを保に見抜かれないためには犯人にも事前の実験や練習が必要だと思います。この点にかぎらず説明不足なところがある作品でした。

 犯人が【ネタバレ*3】に殺人者の汚名を着せて映画『ピンクと水色の天使』のストーリーになぞらえて自殺させる計画にしても、どうやって操ろうとしたのかは明言されていません。

 ナオキがハートと矢を描くきっかけになったメールも、琴葉が受け取ったピンクと水色の天使のメールも、【ネタバレ*4】でしたが、その意図も計りかねます。メールを読んだナオキがハートを背景にした写真撮影を思いつけば【ネタバレ*5】場合に死体の状況との関連が強まるものの、結果的に映画になぞらえたのかメールの伝説から着想を得たのか矛盾が生じてしまいます。

 死体をピンクと水色で彩った理由も犯人によって明らかにされてはいないのですが、ペンキの乾く時間に基づくアリバイ作りのため、と考えていいのでしょうか。オリジナルの事件も同様で。そのうえで映画のストーリーになぞらえて心中したと見せかけようとした、と考えるべきなのでしょう。

 四月も折り込みパンフに仕掛けを施していたように、この五月でも登場人物紹介に仕掛けが施されていました【※ネタバレ*6】。仕掛けに気づいたところで【ネタバレ*7】どうなるものでもないのですが、こういう遊び心は嬉しいところです。

 前回に引き続き保が〈あかずの扉〉シリーズがらみで問題を起こしていました。竹取島ということは二作目の『カレイドスコープ島』のようです。

 著者自らが「ラブコメ」と明言しているこのシリーズ、前作では琴葉が意識しはじめている……くらいだったのに、本書ではお互い素直でこそないもののすでに両思いになっているようです。棚彦のライバル・ナオキが登場し、思い出の人ナヨくんも言及され、ラブコメっぽい体裁が整ってきました。というか、「美少女転校生」という設定だったんですね。

 五月。あの「霧密室」殺人事件から一ヶ月。私立霧舎学園への美少女転校生、羽月琴葉とその同級生にして名探偵(?)小日向棚彦がまたもや遭遇する不可解な殺人事件!コンピュータ室で発見されたその死体は全身をピンク色に塗られていた……!

 学園ラブコメディーと本格ミステリーの二重奏、「霧舎が書かずに誰が書く!」、“霧舎学園シリーズ”。五月のテーマはアリバイ崩し!(カバーあらすじ)

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 私立霧舎学園ミステリ白書 五月はピンクと水色の恋のアリバイ崩し 




 

 

 

*1 写真を捏造した

*2 地面を濡らして影のように見せる

*3 息子であるナオキ

*4 犯人による偽メール

*5 ナオキを犯人にでっちあげた

*6 琴葉の学生IDから、琴葉宛てのメールの送り主を類推できる。

*7 メール自体が偽メールだったのだから

*8 

*9 


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