『私立霧舎学園ミステリ白書 八月は一夜限りの心霊探偵』霧舎巧(講談社ノベルス)★★★☆☆

『私立霧舎学園ミステリ白書 八月は一夜限りの心霊探偵』霧舎巧講談社ノベルス

 霧舎学園シリーズ第五作。

 七月事件で知り合った久賀カメラマンに口説き落とされて漫画雑誌のグラビアを飾った琴葉だったが、撮影現場のサイパンには母親までくっついて来た。

 それでも養護教諭の日辻美加から伊豆の「別荘」に招待されたときには、母親は警察大学校時代の同期会が北海道で開かれるとかでくっついては来なかった。ところが琴葉は行きの電車のなかで見ず知らずの女性に水難を予言される。不穏に思いながらも伊豆に到着すると、日辻の横にはなぜか担任の脇野までいた。まさか日辻の言っていた婚約者とは……。

 別荘とは日辻の祖父の研究施設だった。電気もガスも通っていないため、発電機で最小限の明かりしか確保できない。日辻の祖父はヒツジ出血熱の原因となるウイルスの発見者だった。地元の名家である炭野家の老婦人は、日辻家に呪いをかけられていると信じて日辻家を忌み嫌っていた。だが若い炭野秋人だけは呪いを信じてはおらず、研究所までトラックを運転してくれた。冬美は秋人にぞっこんだった。

 日辻先生の招待に保が絡んでいることから、どうやらまたも棚彦との探偵勝負を計画しているらしい。予想を裏づけるように、保は私立霧舎学園の「新刊」を差し出した。七月とまだ発生していない『八月・心霊探偵』。保によれば八月だけは別人の作で、作者の見当も付いているという。図書委員の中込さんに頼んで調べてもらっている最中だ。

 そうこうしているうち中込と久賀まで伊豆に現れ、中込の鞄が盗まれるという事件が起こる。

 廃校となった近所の小学校まで肝試しをすることになり、冬美の提案で、四組に分かれたグループが四冊の私立霧舎学園のうちそれぞれ一冊を小学校から持ち帰ることになった。トップバッターは冬美と秋人だったが、冬美が一人だけで戻ってきた。秋人が死んでいるという……。

 八月のテーマは心霊探偵で、一応は〈甦る死者〉が扱われていますが、心霊探偵の要素はほとんどありません。甦る死者というよりは、現れたり消えたり北海道まで移動したりする死体消失が謎となっています。

 謎の真相はある著名作【神の灯】のバリエーションですが、またもや脇野が謎の発生に一役買っているところが可笑しかったです。グラビアや付録や書籍そのものまで手がかりにしてきたこのシリーズのこと、当然のように見取り図も手がかりになっていたことにも舌を巻きました。

 そのほかにも羽月警視や蘭堂ひろみやファンの子との会話や、温泉での出来事など、細かい描写によってトリックが補強されており、こういうところは毎度ながら上手いなあと感心させられます。

 そして本を用いた仕掛けは今回も大がかりなものでした。『六月』同様に本書も電子書籍化は出来ませんね。

 この仕掛けが保と棚彦の推理の明暗を分けることにも繋がっていて、単なるお遊びに終わっていないことにも注目です。暗闇のなかでの光源とこの仕掛けの二つによって、真犯人が導き出されるように出来ていました。

 その犯人像に、ちゃんとグラビアが関わっていることにも驚きました。ただのキャラ萌えではなかったんですね。

 派手でこそないものの完成度は高い作品でした。

 当然のことながら今回も保は負けてしまうのですが、それにしてもお茶目なことをやります。よほど一度は勝ちたかったのでしょう。第一の事件に用意された手がかりの数々は、なるほどいかにも推理小説っぽい理屈でした。

 冒頭の予言者は開かずの扉研究会シリーズの咲さんであるらしく、今回はそんなところにリンクがありました。【※「ひろみ」も由井広美だという説もあるらしい

 八月。偶然につぐ偶然の末、クラビア・アイドルとしてデビューを飾った琴葉は夏休みに伊豆の「別荘」へと赴く……が、そこで琴葉を待っていたのは奇怪な怪談にまつわる殺人事件だった! 和服の老婆は叫ぶ――「呪い殺されたらどうする!」

 学園ラブコメディーと本格ミステリーの二重奏、「霧舎が書かずに誰が書く!」、“霧舎学園シリーズ”。八月のテーマは心霊探偵!(カバーあらすじ)

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