『館島』東川篤哉(創元推理文庫)★★★★☆

 館島。

 一見すると味も素っ気もないタイトルですが、本格ミステリサブジャンルに「館もの」「孤島もの」という分野が存在することを思うと、このタイトルが大胆不敵で妙に可笑しく感じられてきます。

 このタイトルになったのにはもちろん「○○館の殺人」とはできない理由もあるのでしょうが。

 瀬戸内海の小島に建てられた六角形の別荘。その中央にある螺旋階段で、当主であり建築家である十文字和臣が死体で見つかった。階段から落ちた転落死かと思われたが、医師の見立てではもっと高いところから落ちた「墜落死」だった。だが――警察がどれだけ探しても、墜落現場は見つからなかった。

 事件から半月後、十文字康子夫人によって事件関係者がふたたび別荘に呼び集められた。事件を担当していた相馬刑事も、遠い遠い親戚として招待された。本人としてはあくまでプライベートな休暇のつもりだったが――。許嫁の奈々江をめぐって十文字の息子たちがしのぎを削るなか、またもや事件は起こった。だが折悪しく接近中の台風により、本土から警察が到着するのは二日後。康子夫人の親戚である私立探偵・小早川沙樹、友人となった奈々江とともに、相馬刑事は独自に捜査を開始するが――。

 何よりもまずとんでもない大トリックが印象に残りますが、謎のほうも魅力的です。墜落したのに墜落現場が存在しない第一の事件。入口にカンヌキのかかった屋上で見つかった死体――空中には開かれている密閉されていない密室。そして、存在しない場所から落ちた人間。

 こうした謎はもちろん大トリックにかかわる産物なのですが、その大トリックにはさらに社会的な事情も絡められていて、こういうのは戦争を真相やトリックに取り込んでしまった横溝正史ディクスン・カーを思わせて舌を巻きました。

  


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