古代エジプトに伝わる宝石を盗み出そうとボーバン家に潜入するルパン。だがルパンの雇っていた老婆が謎の言葉を残して怪死し、パーティ会場には呪いを口走るエジプト人が現れた。ボーバン家にはミイラ男が出没し……。ルパンは部下のマルコとともに謎を探るのだった!
これまで読んだルパン・パスティーシュのなかで最高の出来です。二階堂氏自身による「ルパンの慈善」よりもボワロー=ナルスジャックによる諸作よりも芦辺拓による「真説ルパン対ホームズ」[bk1・amazon]よりも南洋一郎による非ルパンもののルパンものへの翻案よりも。
ルパンものだから本格では全然なくて、秘密の通路なんて当たり前なんだけれど、ばらばら殺人の伏線なんかはゾクッとしたし、金の隠し場所も単純だけど効果的。密室に舞い込む脅迫状は『虎の牙』[bk1・amazon]を連想させてファンには嬉しいところ。暗号がぜんぜん暗号じゃなくてそのまんまなのはちょっとがっかりだけど。ほとんどルパンと部下のマルコ二人だけしか活躍していなくて、ライバルの刑事とか黒幕的な悪役とかを欲張って登場させなかったのが面白い原因の一つでしょう。マニア的なくすぐりは最小限に抑えて、面白さ本意で書かれた、めっぽう楽しいエンターテインメント。
ただし、二階堂黎人という作家が、ミステリーランドというレーベルのために書き下ろしたのが本作であるというのはちょっと疑問。作品が面白ければそれでいいんだとは思えども。だってやっぱり二階堂氏といえば大トリックの本格ミステリのイメージが強いし、このミステリーランドは新本格の生みの親である宇山氏最後の企画らしいし、となればここは古くさいくらいのガチガチの本格であってほしかったなあ。二階堂氏が熱心なルパンファンでもあることや、ルパン生誕100周年であることはわかってはいるのですが。
でもまあそれは作品の出来とはまったく関係のないことです。それにタイトルからして、著者もその辺りの不平は覚悟したうえで確信的に遊んでいる気がする。だって二階堂氏がカーといえばディクスン・カーだと思うじゃないですか。でもそう思うのはきっとスレた大人だけなのかも。本来のターゲットである子どもは純粋にルパンものだと思って読むんでしょうね。――って、個人的には蘭子ものじゃなくてよかったとか思ってたんですが(^^; わたしも純粋にルパンものを楽しませてもらいました。
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