バーティーとジーヴスが世界一周クルーズに出かけるかどうかで言い合っているところに、ガッシーから電報が届いた。婚約者のマデラインと喧嘩をしたから今すぐトトレイ・タワーズに来てほしい。すわ一大事と準備をしていると、ダリア叔母さんが登場。トム叔父さんが欲しがっていたウシ型クリーマーを、サー・ワトキン・バセットがかっさらってしまったので取り返してほしいという。バセットこそはマデラインの父親であり、かつてバーティーに警官のヘルメットちょろまかしの刑で罰金刑を科した判事であった。かくしていやいやながらもトトレイ・タワーズに繰り出したバーティーとジーヴスを待ち受けていたものは、ガッシー&マデラインの仲裁、バセットの姪スティッフィーと旧友スティンキーの婚約とりもち、ファシズム党首スポードの傲慢っぷり、間抜けなガッシーの極秘の手帖紛失事件、そしてウシ型クリーマーをめぐる各々の思惑のぶつかり合いであった。
なによりもスティッフィーの極悪っぷりが印象に残ります。パパバセットやスポードの傍若無人ぶりにも頭が下がる。それだけに、訳者の方も書いているとおり「バーティー・ウースターの完全勝利」で終わる結末にはホッと胸をなで下ろし、胸のすく思いを味わえました。ダリア叔母さんですら「古き良き脅迫」を推奨しておりますが、とりわけどうもバセット一家には脅迫という行為に対する罪悪感が皆無のようです。法律の権化パパバセットですら。
スポードは実在のファシストの戯画化だそうですが、パロディにしてもあんまりな(^^)。「黒ショーツ党」って(^^;……。スポードが極悪に描かれれば描かれるほど、間抜けな黒ショーツとのギャップが笑えて風刺がピリピリと利いてくる。
登場人物すべてに無駄がない。名も無き執事さえも。フレディー・スリープウッドに言及があったり、バーティーの昔のエピソードが生かされていたり、詩や格言の引用もこれまで以上に多かったように感じたし、とにかく細かく張りめぐらされている物語でした。(引用が鬱陶しいっちゃ鬱陶しいけど)。
なぜか誰もが醜悪なウシ型クリーマーを狙っているという状況は、コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』[bk1・amazon]を連想しました。醜悪な「主教の鳥株」ね。フィンチがジーヴスになぞらえられていたことだし、何らかの影響はあるのかも。
細かく張りめぐらされた構成からもわかるとおり、かなりミステリ色というかサスペンス色は強いと思う。かなーり広い意味での。バーティーがいつにもまして躁状態だったようにも感じられたし、終始飽きさせない物語でした。
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