わしゃ驚いたね。なにしろ場所はロンドン塔、やたらに人が入り込める場所じゃあない。そのうえ、あの医者めは堅牢なそこの一室に閉じ込められ、見張りの兵隊までついておったんじゃから。ところが、夜が明けてみると、ころりと死んでおる。しかも毒殺ときた。どうやって毒を盛ったか、これがさっぱりわからない。食べ物でも飲み物でもないとなると……一代の風雲児ロジャー・シャロット! 齢九十でもあらゆる欲を失わない怪翁が若き日の初めての冒険を語る。スコットランド王室をめぐる密室毒殺事件は、海峡を越えた大事件へと発展したのだ!(裏表紙あらすじより)
ヘンリー八世の時代を舞台にした歴史ミステリ。ロジャー・シャロットの「わしじゃわしじゃ」語りに慣れないうちはまったく面白くなかったけれど、ページも進めば徐々に気にならなくなってくる。イギリス王室に仕えた語り手が、王室の裏話やシェイクスピアをネタに下卑た話を繰り広げる。いわゆる歴史の真相を明かす歴史ミステリの王道だけれど、ミステリというより冒険臭が強い。ルパンの探偵ものみたいなやつ。デュマ『三銃士』ぽくもある。宮廷の権謀術数と語り手たちの冒険。
歴史上の人物たちが大げさじゃなく生き生きしてる。みんな生身の人間です。史実をもとにまるっきりの自分のキャラクターにすることに成功しています。だから、歴史ミステリの重厚な感じが好きな人には期待はずれだと思います。ダルタニャンだって実は実在の人物なんですよね。無名の人だけど。それをデュマの筆はあれほど生き生きと描いた。本書もそんな感じの冒険小説でした。
登場人物表のほかに、歴史上の人物表もついているので、イギリス史をまったく知らない人でも問題ありません。
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