『Lay On, Mac Duff!』Charlotte Armstrong(ZEBRA MYSTERY)★★★★☆

 わたしベッシー・ギボンは20歳、もうすぐ結婚する。だけど二月にあれが起こったときにはまだ19歳だったのだ。両親を亡くし、ニュー・ヨークのおじに引き取られることになったわたしを、駅に迎えに来たのはヒュー・ミラーという30歳くらいの青年だった。おじは家から出られないのだという。おじと友人のバートラム・ガスケル、ハドソン・ウィンベリー、ガイ・マクソンが、習慣通りにパチーシ(インド起源の双六)をする日なのだ。ゲームは異様な雰囲気に包まれていた。まるで命がかかっているような……。おばが帰ってきたとたんお開きになった。おばのレナは若くて綺麗だった。眠っていると電話のベルで目が覚めた。おじの声が聞こえる。友人の一人が射殺体で見つかったという報せだった。死体にはゲームの駒が添えられていた……。

 シャーロット・アームストロングのミステリデビュー作。マクドゥガル・ダフものの第一作。これまで日本で紹介されてきた文章では、マクドゥガル・ダフ警部と書かれていたけれど、本篇を読んだかぎりでは警部という記述はない。見落としただけかもしれないが。歴史学教授のアマチュア探偵。

 なんにもわからない女の子が事件の渦中に放り出されて、というアームストロング節が第一作にしてすでに顕在しています。執事のいるお屋敷という大仰な設定もいかにもこのひとらしい。このまま最後までアームストロング流のサスペンスになるのかと思いきや、マクダフの登場でひと味違う作品になりました。

 特に後半は、マクダフによる膨大な仮説の積み重ねが圧巻です。決定的な証拠がないので、いくつもの可能性を徹底的にシミュレートするという気の遠くなるような作業が面白い。聞いている人たちは「信じられない!」とか「馬鹿な!」とか言ってるんだけど、そのたびにマクダフが「いや、ただの可能性ですから」とひとこと。それくらい真に迫ってる。

 語り手のベッシー自身にはそれほどの危険が迫っているわけでもなく、好奇心旺盛に積極的に事件を調べるわけでもないので、中盤がちょっとだれる。でもいたるところにけっこう伏線が埋め込まれているので要注意。

 可能性を一つ一つ潰していく過程で、一つの事実が二つの可能性を示唆しているのが明らかになったりするのが非常にうまい。どっちとも決めかねるまま、また新たな可能性が出てきたりして、けっこう複雑なんだけれど、一つの可能性が潰れた段階でもう一つの可能性も確定できたりと、けっこう考え抜かれた構成でした。

 そうはいっても容疑者が少ないので終盤の議論はほとんど泥沼。もうどっちでもいいよとか思ってしまった。最後の新事実で仮説がひっくり返るわけでもなく、仮説を補強するだけなので、意外性もない。最後にもう一つ大技があれば傑作だったのに。序盤からすでに、○○が犯人だ、いや××が犯人だ、というのが可能性とはいえ明らかにされているのが、その後のアームストロングらしさをかいま見せているとも言える。ただ、謎解きものとしてはともかく、サスペンスものとしては最後にもうひとやま持ってくるあたりさすがにうまい。
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 Lay On Mac Duff

 わたしが所有しているのはZEBRA MYSTERY版。

 その他、何社かから出版されています。amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


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