『The Case of the Weird Sisters』Cherlotte Armstrong(Zebra Books)★★★☆☆

 シャーロット・アームストロング「マク・ダフ」シリーズ第二作『三人の魔女事件』。1943年初刊。読んだのは1992年の再刊本。タイトルの「weird sisters」は前作同様シェイクスピアマクベス』より。第一幕第三場・第五場・第二幕第一場・第三幕第四場・第四幕第一場。「異様な女」「魔女たち」と訳される。

 アリス・ブレナンは大金持ちのイネス・ウィトロックと婚約していた。ドライブ中に立ち寄った実家には、イネスの腹違いの姉が三人住んでいた。長女のガートルードは目が見えず、次女のモードは耳が聞こえず、三女のイザベルは右腕が義手だった。独特の雰囲気を持つ三人に気圧されるアリスだったが、やがて事件は起こった。夕食を食べたイネスが不調を訴える。無理をおして家を出ようとするが、そのとき階段の上から大きなランプが落ちてきた。運転手のフレッドがとっさにかばわなければ、イネスは押しつぶされていただろう……。さらには危険標識の移動、部屋に充満するガス……。

 命の危険を感じたイネスは、遺言を書き替えようとする。「三姉妹の誰かが命を狙っているんだ。アリスに全財産を残すようにしてしまえば、自分の身は安全だ」と主張するイネス。だが事件は終わらなかった……弁護士に電報を打つために訪れた駅で、アリスは偶然にも恩師マクドゥガル・ダフの姿を目にする。今は教師を引退して探偵をしているダフが、事件に乗り出す――。

 一人は目が見えず、一人は耳が聞こえず、一人は片腕、という設定から予想されるように、「○○には××が不可能/可能」という可能性をつぶしてゆく謎解きものです。複数の事件が起きて、そのそれぞれで、実行可能だと思われる人物が異なります。そこに共犯の可能性や障害を詐称している可能性が加わることで、さらに複雑な様相を呈して――くるのですが、前作『さあこい、マクダフ!』同様に、ちょっと複雑すぎるきらいがあります。

 しかも本作の場合、「決定的な新事実」のようなものが出てくるでもなく、解釈の都合だけで終わってしまったようなところがあります。ダフ特有の人間性の観察と聞き込みから共犯の可能性をつぶし、聞き込みにより障害を詐称する可能性をつぶし、「新聞」の事実からある事件の犯人の可能性をつぶし――この時点で可能性としては、1.それぞれの事件が別々の単独犯。2.すべて同一犯だとすると犯人は○○。という可能性しかなくなります。

 そこでダフが「同一のものに等しければ互いに等しい」という思わせぶりな言葉を吐くのですが……。これががっかりもいいところの肩すかしでした。推理でも何でもなく、まんまじゃないですか! 「三姉妹の声の特徴」という伏線を回収しているものの、事件のたびに聞こえる「咳のような忍び笑いのような音」を決定打にするのはさすがに無理があるでしょう。

 さらには、ダフが登場してからは新たな事件が起こるでもないので緊張感に欠けて中だるみしています。

 遺言を書き替えたことで事件の様相ががらりと変わったと指摘されるところ、暗闇のなかで犯人を待ち伏せするところ、このあたりはさすがに盛り上がりましたが。でもこの罠も必然性に乏しいんですよね。。。一章を費やしていろいろ言い訳していますが。

 それからアームストロング作品には珍しく、現在の婚約者、大学時代の元カレ弁護士、婚約者の運転手……に揺れる四角関係が描かれるところもポイントでしょう。基本的にハッピーエンドが多いアームストロングが、これにどう決着をつけるつもりなのか――事件とは別のところでも注目です。

 「All whispers are gray in the dark, like cats, thought Alice. 」という表現が気になったので調べてみると、「All cats are gray in the dark」という英語のイディオムをもじったものらしい。主人公が犯人を待ち伏せするクライマックスで使われているのですが、音だけを頼りに待ち伏せするシーンにはぴったりのいい表現だと思いました。
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  ※日本のamazonの書影は「ACE Books」版。


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