〈理想の教室〉シリーズからひとまず『白鯨』の巻を買ってみました。
こういう、多少強引にでも現在の現実に引き寄せて読もうとする読み方はあまり好きではない。
「世界はクジラで廻っていた」すなわち「鯨がすべてのエネルギー源として世界全体を作りあげ」ていた時代が確実にあったという歴史的事実をふまえて、捕鯨小説である『白鯨』をすなわち「エネルギーをめぐる物語」であるという指摘はたいへんためになる。こういう考察は鹿島茂氏の得意とするところですが、鹿島氏はなにしろ仏文学者だから、米文学でもこういうことを書いてくれる人がいるというのはありがたい。
だけど、エネルギーが鯨油から石油や原子力に変わっても……となるとちょっとついていけない感もある。『重力の虹』と比較するあたりはとても面白いのだけれど。
エイハブ船長を『旧約聖書』における「自分以外を信仰する者を罰する」「嫉妬する神」になぞらえたうえで、「嫉妬する神」の論理こそが船長の「復讐」を正当化する論理だと指摘したのはもっともですし、その論理が現在まで続くアメリカの「報復攻撃」を正当化している論理だというのももっともなのですが、“だからどうなの?”という思いはぬぐえません。(ここで言っているのは「目には目を」「やられたらやりかえせ」という考えがあるからこそこの世は対等なんだということにすぎないと思うのだけれど)。それを知ってわたしはどうすればいいというのか。『白鯨』ってすげえーと思えばいいのか。アメリカの横暴には腹が立つ、と憤ればいいのか。
ゾロアスター教がアフガニスタン云々にいたっては牽強付会もはなはだしい気がする。
本書的に『白鯨』をまとめると、エネルギーを求める者が超越主義的反キリストとしてエネルギーに復讐しようとするもエネルギーに返り討ちに合う物語、ということになるでしょうか。
著者はSFやファンタジーにも造詣が深いので期待していたのだけれど、意外と正統的なアカデミズムの評論でした。
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