『『ブラウン神父』ブック』井上ひさし編★☆☆☆☆

 雑誌/ムック形式の本を想像していましたが、単行本でした。

 期待はずれと聞いていたので期待はしていなかったのだけれど、それをはるかに上回る期待はずれでした。

 よかったのっていうと、別役実小池滋と翻訳二篇くらい。中村保男と別宮貞徳が次点。泡坂妻夫のエッセイは『ミステリーでも奇術でも』に再録されているのを既読だったので。ブラウン神父の初出一覧がうれしいおまけ。

 別役氏の評論(?)は『〜づくし』シリーズを思わせる何とも人を食ったユーモアあふれた作品です。

 ブラウン神父の足跡をたどる小池氏の作品も、この手のものにありがちな実証主義的に終始したつまらぬものではなく、あくまでテクスト解読というか、小池氏ならではというべきもの。

 柳瀬尚紀訳「透明人間」(「見えない人」新訳)と大正時代の「宝物」(「青い十字架」旧訳)はボーナストラック。

 中村作品はただの思い出話エッセイだけど、これを読むと『ブラウン神父』ものが福田恆存との共訳ではなく単独訳だったのだということがわかります。

 別宮作品の指摘は、ほとんどが翻訳の技術的な問題と本文の読解力にかかわる問題であって、キリスト教徒でなければわからないこと、とまでいえないのが残念。

 あとは箸にも棒にもひっかからん。ひどいもんです。顔ぶれはわりと豪華なんですけど。あんまり専門的なことは書くなとか編集者から注文があったのかな? まあ非ミステリ読者が書けばミステリに関してとんちんかんなものにならざるを得ないし、非クリスチャンが書けばキリスト教に関して浅いものにならざるを得ないし、非研究者が書けば評論としてくだらないものにならざるを得ないということなのでしょう。

 池内紀井上ひさし中野記偉の鼎談も期待はずれもいいところ。みんな何を言ってるんだ!? どうした池内! 「青い十字架」のころはちょうど宗教改革後はじめてイギリスで聖体大会が認められた、とか、チェスタトンとウェルズは同時代の人間であって「The Invisible Man」はウェルズと張り合っていたんだ(。そして「The Mirror of the Magistrate」というのはエリザベス朝の芝居のタイトルだ)、とか、ショーやウェルズとのライバル関係とか、同時代の知識というのはとても参考になったけど。
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