「欠陥バスの突撃」★★★★☆
――中年男がシートから立ちあがってわめいた。乗客からは〈色情〉という名を与えられていた。〈サラリーマン根性〉が反論する。〈老人〉が割って入った。
深層心理を擬人化し、はやる気持をバスにたとえ、バスそのものがモノそのものに。繰り返される「トツゲキー」のセリフが耳に残ります。筒井康隆らしいノリノリのコメディ。
「郵性省」★★★☆☆
――好き放題の空想にふけった末、ついに益夫は恍惚状態に達した。その時である。ベッドの上の益夫の姿が、忽然として消失した。つまり、ぱっと消えた。
なんの役にもたちやしないマスターベーションが社会に革命を引き起こす。ばかばかしさも極めつけ。
「脱ぐ」★★☆☆☆
――自己の美貌、肉体の均整、肢体のしなやかさなどを人前にさらけだして見せびらかし、押さえつけていた欲動を一気に発散させてしまいたいという強い願望が、麻紀の意識の大部分を占領してしまった。
シリアスタッチの作品は苦手。同じ深層心理が具現化する話でも、「欠陥バスの突撃」と比べるとそのせいでつまらなく感じる。
「活性アポロイド」★★★★☆
――おれの名前は毒島薬夫《ぶすじまらりお》というキチガイみたいな名前だ。毒薬研究家の親父が作ったボールを握っているといい気持になって失神してしまった。
冒頭からしてかましてくれる(^^)。毒島薬夫って。キュッ、キュッ、キュッが不気味でかわゆい。これはセックスなのか麻薬なのか微妙なところ。
「弁天さま」★★★★☆
――弁天さまが家へやってきたその晩、おれは女房と五歳の息子の家族三人でテレビの洋画劇場を見ていた。
「魚覧観音記」に先立つこと数年、筒井康隆は弁天さまとのセックスも書いていたんですねえ。伏せ字がやらしいというよりおかしい(^^)。
「泣き語り性教育」★★★☆☆
――「はい。はい。着席してよろしい。静かにして。ははは。校長先生が出てきたからびっくりしたでしょう」「ふふふ。性教育でしょ」「え。知ってたんですか」
こういうオチってのは考えてから書いてるのかなあ? 生徒に圧倒される情けない校長先生の授業だったのに、いつのまにか奇想が勝ってあげくにこのオチ。筆が勝手に滑って収拾がつかなくなったのでこれにて御免、てな感じなんだけど。
「君発ちて後」★★★☆☆
――夫が蒸発してから一週間たった。ぼんやりと向かいのバス停を眺めているうち、夫はバスに乗らなかったのではないかと思い始めた。
BGという言葉がなつかしい(というか知らない)。変身願望と欲望を物悲しく描いた作品。
「陰悩録」★★★☆☆
――あれだけは、やめられません。おふろのせんをぬいた、あなの上に、おしりのあなを、あてるのです。なんと、きもちのいいことでしょー。
筒井康隆にはぶっとんだ発想の作品がたくさんあるけれど、よくまあこんなヘンなことを考えるよなー。
「睡魔の夏」★★★★☆
――いったいいつからこんなことになってしまったのだろう。町を歩いているどの人間も、まるで「わたくしはスイミンなどという下品なことは一度もしたことがございません」とでもいいたげな顔をしている。
睡眠が戒められている世界が舞台のSFショート・ショート。「新発掘短篇」ということはこれまで単行本未収録だったのかな。
「ホルモン」★☆☆☆☆
――フランスのブロン=セカール博士が犬の睾丸から取り出した特殊な分泌液を、ホルモンと名づけることにする。
ホルモン発見にまつわるドタバタを各種エピソードを連ねて綴ったパロディ。
「奇ッ怪陋劣潜望鏡」★★★★★
――「あら今五郎さん、あれは何かしら」「あれは潜望鏡だぞ」十数本の潜望鏡が一様におれたちをにらみ続けている。
こういうばかばかしいのは大好きです。潜望鏡がにょきにょき生えているのを思い浮かべると絵的に面白くって楽しい。
「モダン・シュニッツラー」★★☆☆☆
――宇宙飛行士「やいやい、それ以上股をおっ拡げられねえのか」ダッチ・ロボット「とてもいいわ」宇宙飛行士「おまえ何人の宇宙飛行士を相手にした」ダッチ・ロボット「とてもいいわ」
あらゆる性愛を描く。スケール感の大きさとそれに伴うばかばかしさでは、望月峯太郎「ずっと先の話」に匹敵する怪作。こういう淡々としたナンセンスよりはもっとぶっとんだナンセンスの方が好みではあります。
「オナンの末裔」★★☆☆☆
――浩八は興味なさそうに答えた。「女の子と交際しすぎて、セックスには鈍感ですな。オナニーでっか。話だけは聞いてます」
オナニーしたことのない青年が先輩のアドバイスで身近な人をネタにオナニーを試みる話。ほんとにばかばかしくてくだらない(^^;。
「信仰性遅感症」★★★☆☆
――なぜ、昨日の夕食の味を今ごろ感じたのだろう、なぜだろう。その日の午後は授業もうわの空で、鮎子はそのことを考え続けた。
〈信仰性〉ということで絵に描いたような敬虔なクリスチャンが登場しますが、むしろいんちき坊主のでたらめっぷりと微笑み仮面シスターの天真爛漫っぷりがいい味だしてます。
藤田宜永のどーしょもない解説がひどいマイナス。次の『ピカレスク短篇集』では馳星周が解説だし、新しいファンを獲得しようという狙いなのかもしれないけれど見事な空振り(馳の場合は〈ピカレスク〉だからというのもあるのだろうけど)。
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