「合作」マイクル・ビショップ/内田昌之訳(Collaborating,Michael Bishop,1978)★★★★☆
――頭がふたつあるのはどんな気分? もっと正確にいうと、ふたりでひとつの体におさまっているのはどんな気分? ぼくたちなら話してあげられるかもしれない。いまはぼく、ロバートが語り手をつとめている。ぼくはロバート。きょうだいの名前はジェイムズ。
悪くはない。が、〈異色作家短篇集〉のようなのを期待してると、ちょっと違う。『ミステリー・ゾーン』やら『世にも奇妙な物語』的な話ではなく、わりとSFらしいSFなのだ。状況とか雰囲気の不気味さを楽しむとかではなく、どちらかといえば真摯な問いかけ。ジレンマではあるが、相談相手がすぐそばにいる思春期ものとも取れる。頭と体は別々のもの、という感覚がいかにも思春期的だ。二つの頭という設定による視点であるという以上に。
「バラと手袋」ハーヴェイ・ジェイコブズ/浅倉久志訳(My Rose and My Glove,Harvey Jacobs,1984)★★☆☆☆
――ジェームズ・ヒューバーマンが収集をはじめたのはまだ幼いころからだった。ある日の午後、《市民ケーン》風にいえば、思いだしたのはバラのつぼみだった。おもちゃのオートバイ。昔、わたしはそれをヒューバーマンと交換したのだ。
ハーヴェイ・ジェイコブズは文章が暑苦しいというか人生のしんどさが滲み出ているというか。文体が苦手。「グラックの卵」も途中まではそんな感じだったけど、あれはすぐにドタバタになってくれたから面白かった。
「認識」J・G・バラード/中村融訳(The Recognition,J. G. Ballard,1967)★★★★★
――夏至の前夜、小規模のサーカスがやってきた。若い女と小人はすでに荷車を動かして、見まちがえようのないサーカスの配置にならべ替えているところだった。檻のなかでかすかに動きがあり、青白いものがひとつかふたつ、藁のなかで動きまわった。
こういうのを待っていた! これぞ異色作家短篇。小人と年齢不詳の女のサーカス。何かわからぬ動物が入っているらしき檻。この雰囲気だけでもお腹がふくれる。歪んだ自分を見てしまう。見えてしまう。見えない人には見えないのだ。一つだけからっぽの檻というのが怖いな。また夏至の前夜というのがあからさまに何かありげでいい。この世ならぬものが訪れてしまうのだ。
「カリフォルニアの魔術師たち」クリストファー・コンロン/中村融訳(Introduction:California Sorcerers,Christopher Conlon,1999)
チャールズ・ボーモントを中心とした〈グループ〉のエピソード。『ミステリーゾーン』の原作・脚本メンバーたち。これがまたすごいメンバーばかり。にしても、権利の関係をクリアーして早くDVDBOXとか発売されてほしい。
「ウィリー・ワシントンの犯罪」チャールズ・ボーモント/中村融訳(The Crime of Willie Washington,Charles Beaumont,1988)★★★☆☆
――さて、警官がやってきて、無実の罪でウィリーを監獄にぶちこんだときまで、彼が犯した犯罪は一つだけだった。容疑を告げられたわけではないが、絶えず尋問されているうちに、少女をレイプして殺したと思われているのが判明した。とうとう裁判の日がやってきて、ウィリーは恐れもせずに法廷に座っていた。
神がいるとしたら、神はアホだ。キリスト教圏の読者はこうゆうのどう思うんだろう。かなり怖かったよ。無垢で純粋なるものの話なのかと思って読んでいたら、最後には選民思想じみたところに着地してしまった。最終戦争後に神の国が訪れるとかなんとかゆえに、起こらぬなら起こしてしまえハルマゲドン、とかでサリンを撒いたり隣国に喧嘩ふっかけたりする人たちもいるからなぁ。迫害こそ選ばれし者の証、てかい。
「《異色作家短篇集》全作品レビュウ1
ダールとスタージョンとランジュランとデュ・モーリアの欄を石堂藍が執筆している。
【異色作家特集1】はここまで。
広告ページに牧眞司『世界文学ワンダーランド』の紹介が。
「My Favorite SF」(第17回)森岡浩之
ラリイ・ニーヴン『リングワールド』。「たわけた思いつき」という紹介のされ方をするとかえって読みたくなってしまふ。
「映画『素粒子』誌上先行公開」
ミシェル・ウエルベック『素粒子』が映画化。新作『ある島の可能性』も刊行。
「展覧会「夏への扉――マイクロポップの時代」」
おなじみタカノ綾とか奈良美智とか。
「おまかせ!レスキュー」107 横山えいじ
「(They Call Me)TREK DADDY 第01回」丸屋九兵衛
「SF挿絵画家の系譜」(連載14 真鍋博)大橋博之
クリスティ(旧版)や星新一でお馴染みの真鍋博。
「サはサイエンスのサ」147 鹿野司
グレッグ・イーガンは自閉なりという話。
「家・街・人の科学技術 05」米田裕
引き続き電池じゃ。
「SFまで100000光年 45 かっこいいコブシメ」水玉螢之丞
ドット絵の話。適度にオタクくさくて適度にイラストレーターらしい話題がこの人らしい?
「みはりだいのむすめ」片山若子《SF Magazine Gallary 第17回》
『夏期限定トロピカル・パフェ』とかのカバーイラストの方ですね。絵のタッチだけでなく、ストーリーまでもが子どもの書いた日記or創作物語みたい。作品世界がちゃんとある方なのでしょう。
「映画『大帝の剣』誌上先行公開」
夢枕獏原作、阿部寛&ハセキョー主演映画を、なぜか堤幸彦が監督。この人の世界観は楽屋落ちというかネット系というか、身内にだけわかればいいみたいな作品なのが好きではない。『TRICK』みたいなオリジナル作品だと、まあそういう作品世界のものとして出来上がっているのだけれど。原作ものも自分の世界に引き込んじゃうんですよね……。中途半端に。上っ面だけ。完全に別物にしてくれりゃあまだしもいいのだが。さて今回はどうなるのか。
「ヨーロッパ企画「バック・トゥ・2000シリーズ」開幕!
劇団「ヨーロッパ企画」の紹介だ。
「MEDIA SHOW CASE」渡辺麻紀・鷲巣義明・添野知生・福井健太・飯田一史・編集部
◆『蟲師』、また漫画の実写かよ。。。と気にも留めていなかったのだが、大友克洋が監督だと知る。途端に見てみたいという気になる。
「今月の書評」など
◆松尾由美と梶尾真治の新刊が出た。それぞれ『九月の恋と出会うまで』[bk1・amazon]、『悲しき人形つかい』[bk1・amazon]。『悲しき〜』は「一見リリカル路線と見まごうような装丁とタイトルだけれども、これは作者のスラップスティック路線の快作」とのこと。「落語の「らくだ」を思わせる」と聞けば装丁とタイトルの意味もわかろうというもの。しかしリリカルなんだよなあ(^^;この装丁。松尾作品の方は時間SFのラブ・ストーリー。定番だが松尾由美なので期待。
◆『素粒子』映画化でも取り上げられていたミシェル・ウエルベック『ある島の可能性』[bk1・amazon]。あらすじ紹介が抽象的すぎてどんな話なのかまったくわからないのが気になる(^^;。
◆『中学生のためのショート・ストーリーズ』[bk1・amazon]、新刊案内を見て気になったんだけど、選者(編者?)の顔ぶれを見て興味が薄らいでしまったんだよなー。編集者が用意した候補作のなかから、選者がピックアップしたんだろうなってのが見え見えなんだもの。違ってたらごめんよ。
◆ジェフリイ・フォード『ガラスのなかの少女』[bk1・amazon]は問答無用で必読なのでいいとして、「意外な拾いもの」というヘザー・グレアム『白い迷路』[bk1・amazon]が微妙。MIRA文庫だものねえ。しかしよくこんなものまでチェックしてるなあ。
◆千街晶之氏がトゥーイ『物しか書けなかった物書き』を紹介のほか、牧眞司氏がユアグロー『たちの悪い話』、長山靖生氏がとり・みき『街角のオジギビト』、森山和道氏がカーツワイル『ポスト・ヒューマン誕生』をそれぞれ紹介。
「魔京」朝松健(第六回)
今回は最後が史実とのつじつま合わせみたいでつまらんかった。というか、初めのころは理屈と妖しさのバランスがおどろおどろしかったのに、だんだん理屈だけになってきた感がある。
「罪火大戦ジャン・ゴーレ」(第28回)田中啓文
『怨讐星域』第五話「ハッピーエンド」梶尾真治/加藤龍勇イラスト★★★★★
――人口の七割がいなくなってしまった地球だが、以前と同じように社会は機能していた。森田妙は、アーケードの中をリュックを背負って疾走していた。時間に遅れそうだ。八人ほどが、バスの前にたむろしている。長嶺謙治の姿も見えた。
また「ハッピーエンド」だなんて……。まさに「エンド」なんだものなあ。いやそれよりも、「構想練り直しのため次回掲載は二〇〇八年二月号になります」だとさ_| ̄|○。ほとんど一年後じゃないか。。。まあまだ宇宙船やテレポート先の惑星のエピソードで切られるよりはよかった。地球のエピソードであれば一話完結の短篇としても読めるから。やがて確実に来る死と向き合ったラブストーリー。
「下から見上げた気象予報図」井上裕之《リーダーズ・ストーリイ》
「近代日本奇想小説史」(第58回 本格PR未来小説の決定版)横田順彌
今回は星新一の父親星一が原案の、星製薬のPR小説。貴重である。
「SF BOOK SCENE」加藤逸人
カナダの新鋭ピーター・ワッツの『Blindsight』が「ハードSFにおける二十一世紀最初の古典」とまで言い切ってます。吸血鬼が出てくるあたりのご愛敬がワタシ的にはかえってツボだったりする。作者のサイト http://www.rifters.com で全作品(?)のテキストが公開されているので、まずは短篇でもさらっと読んでみようかと思う。
「MAGAZINE REVIEW」〈アシモフ〉誌《2006.10/11〜2007.1》深山めい
ウィリアム・バートン「地底世界へ」(Down to the Earth Below)がよさげ。「六〇年代のSF少年たちが主人公」だそうだ。ほかには先々月号の『S-Fマガジン』に掲載されていた「カロリーマン」のパオロ・バチガルピ「イエローカード・マン」(Yellow Card Man)。作品世界の設定が同じだそうなのでちょっと気になる。
「センス・オブ・リアリティ」金子隆一・香山リカ
◆「頭の中のCMソング」金子隆一……ほんとかよお。脳に直接データを入力する実験が、スタートラインとはいえラットではすでに成功しているのだとか。
◆「大量定年にみる団塊の実像」香山リカ……もう、テレビをつけりゃあ団塊団塊。しょうじきうっとうしい。。。
「デッド・フューチャーRemix」(第61回)永瀬唯【第11章 きみの血を 第8滴】
真打ち登場。リチャード・マシスン『地球最後の男』(旧題『吸血鬼』)。ところが吸血鬼もののはずがなぜかゾンビーものに影響を与えたという話である。となると次回は……。
「第2回日本SF評論賞最終選考会採録」石川喬司・谷甲州・ひかわ玲子・塩澤編集長
今回は受賞作なしで優秀賞が二篇。今月号掲載の「国民の創世」と来月号掲載予定の「グレッグ・イーガンとスパイラル・ダンスを」。「国民の創世」は第1回評論賞候補作の改稿版。
「国民の創世――〈第三次世界大戦〉後における〈宇宙の戦士〉の再読」磯部剛喜
どうもピンとこなかった。「反共」と「好戦」って別に対立する概念じゃないはずだもの。「反共」と「反共ファシズム」はイコールではないということを言いたいがために、そこから先がおろそかになっている感じ。「反共」を明確に定義してほしかった。「共産主義」の結果としての「全体主義」や「独裁」に反対というのならともかく、ただ単に「共産主義」に「反(アンチ)」なのであれば、戦争讃美じゃなくて反共小説である、と言われたところで、マッカーシズムと変わりはないじゃん。
------------------
