『異人館』レジナルド・ヒル/松下祥子訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ1795)★★★★☆

 『The Stranger House』Reginald Hill,2005年。

 面白い。が、それは帯にあるように「あらゆる要素を詰め込んだ」というほどではなく、強いて言えば警察官ではない人間が主人公の警察小説、あるいはハリウッド映画的な謎解きサスペンスもの、という方がしっくりくる。幽霊とかゴシックとか歴史小説とかは味付けで、中心となっているのは、自らのルーツの謎に向かって突き進むちょっと勝気な女の子と、カトリック迫害時代の調査に赴くかつて司祭を目指していた霊感体質の歴史学者の物語です。

 まあ自らのルーツを探る人物と霊感体質の歴史学者ですから、それは当然、幽霊とかゴシックとか歴史小説とかは密接にかかわってきますが。イギリスの歴史、スペインの歴史、カトリックの歴史も楽しめる贅沢な作品ではあります。

 幾重にも隠されていた真実が、一皮剥けば「イギリスの恥部」、また一皮剥けば「田舎の体質」、もう一皮剥けば「村の犯罪」、さらに一皮剥けば……これでもかというくらいに幾重にも絡まった謎が、見る角度によってくるくると変わるのを読むのは醍醐味ですねー。

 「偶然」が多いことだって欠点ではありません。なにしろ「すべては神の思し召し」なのですから。余計な付け足しに思える最終章も、むしろ作品世界にはふさわしいかな?

 イングランド北西部の小村イルスウェイト。何百年も続くこの村を偶然二人の男女が訪れた。女は数学者のサム。この村の出身らしい祖母の生い立ちを調べに来たという。男は歴史学者のミゲル。約四百年前の迫害されたカソリック教徒の調査に訪れたのだ。村の過去を掘り返そうとするよそ者に村人たちは口を閉ざす。だが、二人の宿泊する〈異人館〉の地下室から古い頭蓋骨が見つかり、やがて各々の家族が関わった驚くべき事件が明らかに……巧まざる因縁が時空を超えて複雑に絡み合い織りなす物語。本格の大家が皮肉とひねりを効かせて描く会心作。(裏表紙あらすじより)

 『異人館』
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