『横溝正史翻訳コレクション 鍾乳洞殺人事件/二輪馬車の秘密』ウィップル/ヒューム/横溝正史訳(扶桑社文庫昭和ミステリ秘宝)★★★☆☆

『鍾乳洞殺人事件』D・K・ウィップル(The Carter Cave Killings,D. K. wipple,1934)★★★★☆
 ――私は今、この間米国カーター洞窟に相次いで起こった、あの恐ろしい三つの殺人事件について、記録を残そうと思っているのでございます。アシ博士と私は、最近発見された鍾乳洞を検分に来てほしいと申込まれたのでした。鍾乳洞見物の最中のことです。所有者のカーター老人が鍾乳石で刺し殺されているではありませんか。

 ただ単に“横溝正史訳”だけが売りの、古くさくてつまんないミステリだと侮っていたのだが、予想以上に面白かった。『八つ墓村』+『バスカヴィル家の犬』。やけに楽しい。あんまり本格原理主義じゃない、いい意味で不真面目なところがいいのだろう。

 人を非難するにしても、恐れおののくにしても、なんかノリがいい。しかし警部がお馬鹿すぎ(^_^)。

 ただこれはミステリというよりは、デュマとかの冒険小説の面白さに近いかな。

 ときどき、古い当時の本をパロディとして読んでしまっている自分がいて、そういう楽しみ方は邪道なんではないかという気がするものの、それもまたよしか。
 

『二輪馬車の秘密』ファーガス・ヒューム(The Mystery of a Hansom Cab,Fergus W. Hume)★★☆☆☆
 ――紳士が泥酔者を抱えて馬車を呼び止めた。「聖キルダまでやってくれ」英吉利教会の前までやってくると、突然紳士は馬車を止めさせ、自分だけ降りてしまった。馭者が扉を開けて中を覗いてみると、泥酔者は前のめりに倒れ、どうやら既に事切れている様子である。

 どちらかと言えば『鍾乳洞』の方が好み。『二輪馬車』はわりと普通のミステリっぽくて面白くない。『バスカヴィル』より『四つの署名』の方が好きという人はあまりいまい。特定の主人公がいないというのも、波瀾万丈というよりも散漫な印象を与えている。何よりも、ヘンなミステリだったら真相が見え見えでもそのヘンなところを楽しめるのだが、オーソドックスなミステリで真相が見え見えだと面白くも何ともない。
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