『ミステリマガジン』2021年3月号No.745【クイーンのライツヴィル】

「中・後期クイーン座談会」有栖川有栖×綾辻行人×法月綸太郎×麻耶雄嵩(司会・千街晶之
 参加者が五十音順じゃないのが気になります。クイーンのことなら綾辻氏よりも有栖川氏ということなのか、有栖川氏の持ち込み企画なのか――。ライツヴィルの名は数年前に死んだヴァン・ダイン(ウィラード・ハンティントン・ライト)とは関係ないのか、と疑問に思う麻耶氏の発想が面白い。ライツヴィルだと神通力が弱くなるクイーンのことを、「都会の優等生がアウェイだと力が弱まる感じ」という有栖川氏の表現も秀逸です。
 

「エラリイ・クイーン ライツヴィル訪問記」飯城勇三
 ライツヴィルものの紹介。

「ライツヴィルを探せ! エラリー・クイーンが求めた“地上の楽園”」山口雅也
 ライツヴィルがどこにあるかの検証、加筆版。

「「後期クイーン百合」とは何か」陸秋槎
 先頃邦訳された『文学少女対数学少女』の惹句だそうです。
 

「戯曲版「災厄の町」ジョゼフ・グッドリッチ/越前敏弥訳(Calamity Town,Joseph Goodrich,2009)
 

「おやじの細腕新訳まくり(21)田口俊

「永久に美しく」シリア・フレムリン/田口俊樹訳(For Ever Fair,Celia Fremlin,1970)★★★★☆
 ――見るなりまともな医者ではないと思った。自称、認定開業医J・モートン・エルドリッチ。“若さの持つ魅力の喪失を怖れるあらゆる女性”への“ただ一度きりのすばらしいご提供”。どこまでもインチキくさい。夫が若い娘と恋に落ちた。イーディスはたぶん十八歳くらい。ふわふわした感じの娘だ。若さ以外には何にもない。頭もよくないし、何を言ってもただ笑っているだけ。その日、よろけながらも半分走るようにして、男の気を惹こうと、か弱い身体を自動的に全面的にロナルドに預けたのがよくわかった。

 頭からっぽの若い娘に夫が恋してしまう、なんてよくある話。――だと思っていたら、それらの描写が伏線だったことには恐れ入りました。怖いとか皮肉とかよりも、ひたすら著者の巧さに舌を巻いた作品でした。
 

「書評など」
文学少女対数学少女』陸秋槎は、『元年春之祭』の著者による邦訳三作目。

◆ハヤカワ時代ミステリ文庫の新刊は『信長島の惨劇』田中啓文明智光秀の死後、謎めいた手紙によってとある島に集められた信長の関係者のあいだに起こる『そして誰もいなくなった』。著者が田中啓文というのが気にかかりますが、紹介文は面白そうです。

『孤島の来訪者』方丈貴恵は、鮎川賞受賞作『時空旅行者の砂時計』シリーズ二作目。『火喰鳥を喰う』原浩は、横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作。タイトルとカバー装幀がすごく気になっている作品です。

◆クリスティー新訳は『ナイルに死す』『葬儀を終えて』ともども好評のようです。

◆漫画魔法少女には向かない職業』は、斜線堂有紀が原作。
 

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