「ニュースレター」コニー・ウィリス/大森望訳(Newsletter,Connie Willis,1997)★★★★☆
――ナンの一族では、クリスマスになるとおたがいの近況を送りあうニュースレターがさかんに行き交うようになる。しかし、ナンはこれが大嫌いで、今年も少しずつ憂鬱になりかけていた。そんなある日、同僚のゲアリーからひそかに、最近おかしなことが起こっていないかと訊かれる。考えてみると、確かにナンの身のまわりでも、いつもとは少しずつ違うことが起こっているようで……。
一応のところは「侵略SF」なのだが、相変わらずのドメスティック&平凡な日常(^_^;。緊迫感がない〜。舞台がクリスマスなだけではなく、侵略の仕方が「クリスマス」っぽいところがお洒落。
「あの季節がやってきた」チャイナ・ミエヴィル/日暮雅通訳('tis the Season,China Mieville,2004)★★★★☆
――何をするにもライセンスが必要になった近未来では、クリスマスを人並みに祝うのもひと苦労だ。しかし今年のぼくは違う。「サンタ」や「ヤドリギ」、そして「赤鼻のルドルフ」や「ミンスパイ」といった、古くからクリスマスを彩ってきた事物に関する商標(TM)を数多くおさえるユール社が主催する、クリスマス・パーティのチケットの懸賞にあたったのだ。僕は娘を連れて意気揚々とパーティに向かうが……。
ifものの常として、読んでいるわたしは、正常な(?)「クリスマス」というものを懐かしむ語り手に同調しているのだけれど、この作品はそんなセンチメンタリズムなど吹き飛ばしてしまう。そういう意味では、暖かいようでいてけっこう冷たい作品だ。でも本来は行事でもショーでもなく、文字どおり「お祭り」のはずだったのだ。
「クリスマス・ツリー」ピーター・フレンド/市田泉訳/加藤龍勇イラスト(The Christmas Tree,Peter Friend,2004)★★★★☆
――クリスマス・ツリーは、多大な恵みをもたらすといわれている。貧しい村に育った少年ブルーナは、危ないから立ち入らないように言われていたブラックストーン谷で、熟れた実のなるクリスマス・ツリーを見つけた。村人たちは昔から伝わるやりかたで、ツリーから実と種を得ようとする……。
異世界クリスマス・ファンタジー。クリスマスとは何ぞや? 祝い、施し、赦し……そして、恵みの季節なのだ。この世界の用語を使いながら、ヘンテコな植物や習慣やらを繰り出してくる楽しくも心温まる一篇だ。
「郊外の平和」M・リッカート/三角和代訳(Peace of Suburbia,M. Rickert,2003)★★★★☆
――クリスマスをひかえたとある郊外の一軒家。実家で日々弱っていく父親、夫とのコミュニケーション不足、少しずつ自分の言うことを聞かなくなってくる子供たち――そんな日々の生活に疲れを覚える母親は、間近にせまったクリスマスに浮かれる子どもたちの姿に、言い知れぬいらだちを覚えている……。
〈MAGAGINE REVIEW〉ではちょこちょこ紹介されるリッカート。以前紹介されてた「The Christmas Witch」も読みたかったのにな。本篇はほんと何気ない日常の一齣を描いた作品。子どもの反抗期、戦争、死期の近い父……何気ない一言からぱっとファンタジーが開ける。
クリスマス特集はここまで。
「My Favorite SF」(第24回)林譲治
レム『砂漠の惑星』。前回の菅浩江氏もブラッドベリの魅力をうまく紹介してくれていたが、今回の林氏もレム作品の魅力を適切にまとめてくれている。思い出話+紹介文という理想的な内容。
「ワールドコン総括特集」
「見はるかす、中心から外を……現在から明日を」デイヴィッド・ブリン/酒井昭伸訳
ゲスト・オブ・オナーであるブリンのスピーチを採録したもの。けっこう「日本」に配慮してくれた内容になっている(^^)。“中華”としてのアメリカ、そして「サイエンス・フィクションのもっとも重要な役目のひとつは、変化について考察することにあります」。
「天野喜孝に聞く」天野喜孝・石井進・田中光・大森望(司会)
ニール・ゲイマンとのコラボの話が面白かった。鳥居とか、平安のパンダとか。
「グイン・サーガは何を描いてきたか」栗本薫・丹野忍・田中勝義
あと三百巻って……(^_^;。
「〈ニッポンコン〉ファイルSFWJ版」巽孝之
行っていない人間としては、生き生きとしたレポートも読みたいところなのですが、これは冷静なまとめ報告となっています。
「パネル、そしてパネルの日々」
こちはら生き生き派。「スリップストリーム」とか「マンデーンSF」とか、あちらの作家・編集者も実体を把握しているわけではないんだなあと思うと妙におかしい。しかし小川氏としてはそこらへんの齟齬が残念だったみたいだ。
「大きな期待と関心のなかで」森下一仁
星新一氏の愛弟子・新井素子氏と評伝の著者・最相葉月氏の対談。『小説新潮』12月号掲載だそうです。
「SFまで100000光年 51 熊の木に熊の花咲く」水玉螢之丞
人生においてプロ野球観戦に費やされる時間は、“あの”置き場所に困るお土産「木彫りの熊」を彫る時間に換算するとどのくらいか?という毎度バカバカしいお話で。
「GARBAGE HEADS」AKIRA WAKUI《SF Magazine Gallary 第24回》
最近よく見かける気がする。切り貼りタッチの絵による世界の終わり。
「『インベージョン』誌上公開」
ということで、『盗まれた街』四度目の映画化もいよいよなわけだが、どうなんだろう。楽しみだ。そういえば数あるウィリスのクリスマス・ストーリーのうち「ニュースレター」が掲載されたのは、これに合わせたのかな?
「MEDIA SHOW CASE」矢吹武・小林治・添野知生・福井健太・宮昌太郎・北原尚彦
◆映画はニール・ゲイマン『スターダスト』と『仮面ライダー THE NEXT』。
◆WOWOWで放送の「マスターズ・オブ・ホラー」第3話「男が女を殺すとき」が、ティプトリー「ラセンウジバエ解決法」原作なのだそうだ。デジタルWOWOWでは11月12(月)深夜2:45から再放送。
「SF BOOK SCOPE」林哲矢・千街晶之・牧眞司・長山靖生・他
◆銀林みのる『鉄塔武蔵野線』が再刊されたわけだけれど、鉄塔写真完全版+鉄塔マップ付の決定版らしい。
◆中村融編『千の脚を持つ男 怪物ホラー傑作選』は『影が行く』『地球の静止する日』に続く第三弾。アーサー・ブラッドフォード『世界の涯まで犬たちと』が「ケリー・リンクやジュディ・バドニッツをお好きな方にはぜひ手にとっていただきたい」とのことなので、さっそく購入したい。
◆奇想コレクションからはタニス・リー『悪魔の薔薇』。映画欄ではそれなりに好意的だったニール・ゲイマン『スターダスト』だが、こちらでは「基本的には他愛のないお伽噺」と評価されてます。
◆ローラン・トポール『幻の下宿人』は買おうかどうしようか迷ってるんだよなあ。ヘンな話というだけならいいのだが、相当に嫌らしい話らしいから。
◆林哲矢氏も紹介していたアーサー・ブラッドフォード『世界の涯まで犬たちと』、牧眞司氏も紹介してます。こちらでは「ケリー・リンクもバリー・ユアグローも」ということで、どうやらケリー・リンク好きには必読のようです(^_^)。
◆長山靖生氏が紹介している『秘密結社の日本史』。長山氏の紹介の仕方が面白い。「日本は秘密結社だらけ」なのだそうだ。
「小角の城」(第14回)夢枕獏
「無言飛脚がやってくる」椎名誠《椎名誠のニュートラル・コーナー05》
今回は「IF」ものSFについて、ということで、シーナ氏のやりたい放題です(^^)。最後は文体(?)まで変えて、もう無茶苦茶(^^)。
「罪火大戦ジャン・ゴーレ」(第35回)田中啓文
「おまかせ!レスキュー」114 横山えいじ
「デッド・フューチャーRemix」(第66回)永瀬唯【間章 1940年のヴィデオ・ディスク】
吸血鬼は中断して「アナログDVD」の話です。つくづく、現実って充分SFだよなあ、と思いました。これで歴史改変SF一篇書けるじゃん。
「(They Call Me)TREK DADDY 第08回」丸屋九兵衛
「サはサイエンスのサ」154 鹿野司
ゴアのノーベル平和賞について一言&温暖化問題について。すでに手遅れ、というのはよく見聞きしていたけれど、千年かあ……。
「家・街・人の科学技術 12」米田裕
新幹線なんてまったく興味なかったから、掲載されているN700系の写真とイラストを見てびっくりした。なんじゃこりゃ。見た目がオモロイ。
「センス・オブ・リアリティ」
◆「光は上方より」金子隆一……『新世紀未来科学』に対する反論への回答から始まって、未来のエネルギー源へ。
◆「「私のせいじゃない」の代償」香山リカ……そうそう。それを言い訳に使ってしまう輩がいるんですね。「アダルトチルドレン」と「解離性障害」に「前世のせい」を並べてしまう悪意に笑わせていただきました(^^)。
「流刑」曽田修《リーダーズ・ストーリイ》
――射殺された宇宙一の極悪犯。当局としては何としてでも刑に処したかったのだが。残された犯人の痕跡はDNAだけで……。
先月号あたりから飛躍的にレベルがアップした気がする。この人は常連さんだからうまくなるのは当然だが。よくあるアイデアを正攻法で書いたのがよかったんだと思う。本人的にはもの足らないのかもしらんが。
「近代日本奇想小説史」(第64 押川春浪と冒険実記 その2)横田順彌
前回に続いて春浪代筆の旅行記もの。前回取り上げたのは中村春吉で、今回は中村直吉、という事実だけでも充分に奇想なんだけれど、本人たちは別に笑わそうと思ってやってるわけではないのがまたおかしい(^^)。
「MAGAZINE REVIEW」〈インターゾーン〉誌《2007.5/6〜7/8》川口晃太朗
今回は面白そうなのが多かったぞ。レイチェル・スワルスキー「心臓を縫いつける」(Heartstrung)は、文字どおり心臓を縫いつける母娘の物語。川口氏が訳した「お針子」という単語もいっそう哀れを誘う。スティーヴン・フランシス・マーフィー「火曜日の解体」(Tearing Down Tuesday)は、友人のおんぼろロボット“火曜日”が売られようとしているところを目撃した少年カイルの物語。グレイス・デュガン「知識」(Knowledge)は、あるとき突然、人の頭の上に数字の羅列が見えるようになった女子大生の話。読者とすれば数字の意味は明白なのだが、「ワンアイデアで押し切ることに成功した一篇」だとのこと。
「ハヤカワ・ロボットSFショートショート・コンテスト選考結果発表」
簡単な選評。最優秀賞が今月号掲載。次席3作が来月号に掲載。
「僕たちの放課後(「その手を離さないで」改題)」谷中悟
――アッピが声帯をつかって話しかけてきた。ギムリたちは人間化学を学んでいる最中だった。突然アッピが止まった。「今のシグナル、受信した?」
人間〜サイボーグ(?)〜AIが、「事件」後に何やら複雑な関係に陥っている世界を舞台に、AIの「成長」を描いた一篇。「人間だったころの記憶」ものを、サイボーグを介することでAIにも敷衍させた発想が面白い。青春ものとしてはちょっと瑞々しさ不足だけど、長さ的に仕方がないか。
「ケリー・リンク・インタビュウ」ケリー・リンク×牧眞司
ほほう。YA長篇を書くかもしれないのか。どんな長篇になるのかな。好きな作家として挙げられているマーゴ・ラナガン、イザボー・ウィルス、ジェフリー・フォード、M・リッカート、イアン・マクドナルド、クリストファー・バルザック、M・ジョン・ハリスン、アーシュラ・ル・グィン、エイミー・ベンダー、ジュディ・バドニッツ、ステイシー・レクター、マイケル・シェイボン、ジョナサン・レセム、ケヴィン・ブロックマイヤー、リンダ・バリーあたりはやはり読んでみたいな。
「ゼロ年代の想像力 「失われた十年」の向こう側 06」宇野常寛
この人は結局、セカイ系の作家たちと一緒で大言壮語なんですよねえ。前ふりですっごく盛り上げておいて、本論は大雑把でしょぼいというか。面白ければそれでいいのだが、イキオイだけで6回も書かれると、そろそろ飽きてきた。『PLANETS』第4号で東浩紀氏との対談があるそうです。
「イリュミナシオン」12 山田正紀
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