『坂手洋二1 屋根裏/みみず』坂手洋二(ハヤカワ演劇文庫7)★★★★★

 これまではどちらかと言えば、いわば古典の文庫化が占めていた演劇文庫に、バリバリの現役作家作品が初単行本化でお目見えです。

「屋根裏」★★★★★
 ――狭く天井の低い、閉ざされた空間「屋根裏キット」。これを使って人々は現実から身を守ろうとする。不登校やひきこもりの子ども、張り込みの刑事、新撰組の動きを探す素浪人。山では避難小屋に、戦場では防空壕になる。だが、自殺や監禁を引き起こすとして屋根裏は発売禁止となり……世界一小さな舞台空間を変幻自在に発展させ、毒と笑いを盛り込み人間の孤独を鋭く映し取る、読売文学賞受賞の傑作「屋根裏」他一篇(裏表紙あらすじより)

 こと演劇(というかハヤカワ演劇文庫収録作)に関しては、これまでのところ日本の方が優れているように思う。アメリカの作家が現代的な問題を生のままえぐり出すのに対して、日本の作家は現実を、舞台という異世界として再構築しようとしています。剥き出しの力強さに打たれることもそれはもちろんあるけれど、やはり創作としての洗練と喚起力は圧倒的にこちらの方が上。

 〈断絶〉や〈個人主義〉が当たり前のようになった世界では、向き合える世界は所詮地球儀の上の世界なのか。それでもきっと、覗き穴から覗くことで見える世界もあるのに違いない。世界は〈外〉だけでできているわけではないのだ。
 

「みみず」★★★★☆
 ――チャイムが鳴る。「おふくろかな」「やばー」「とにかく服着て」キミコ、服をつかんでベランダへ隠れる。ドアがあき、姉のチエ登場。「姉さん、いたの?」「いたわよ、ずっと」ベランダからキミコの悲鳴。「ミミズなんだ。生ゴミを食べてくれるから、リサイクル・グッズとして売ってるわけ」「あ……誰か手、じゃない、大根を振ってる」「お母さんじゃない」「あたし、帰ります。おじゃましました」

 勝ちと負け、いじめっ子といじめられっ子、文句を言う人と言われる人、襲う人と襲われる人……人と人が触れ合う限り、何かの形で暴力は存在せざるを得ない。姉と弟、妻と夫、元カノと彼、恋人同士、近所付き合い、襲う人と襲われる人……言葉やつきあいによるコミュニケーションが断たれたときに、人と人との関係は肉体や強制という名の暴力に変わる。そんなめちゃくちゃ危うい日常生活というものが、ふっと揺らいだり安定しそうに見えたりする瞬間が、ミミズを飼う家庭を中心に描かれます。微妙にスリリング。
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  『坂手洋二1 屋根裏/みみず』
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