前から買っておいたのだけれど、取り上げられている作品に未読のものが多いので読みそびれていた。取りあえず『木製の王子』論だけ読んでみることにした。
――というか、『木製の王子』論というより『夏と冬の奏鳴曲』を中心とした麻耶雄嵩論でした。キュビズムを作品世界にまで取り込んで『奏鳴曲』を読み解こうとする発想に虚を衝かれました。言われてみればなるほどキュビズムが単なるペダントリーではなく作品にとって必然的なものである、と考えるのは当然という気もするのですが、やはりどこかで「本格ミステリ」というものに対する固定観念があったせいでそんなこと思いもよりませんでしたから。
こういう思いがけない視点こそ評論の醍醐味だと思っている人間にとっては、嬉しい読解です。
そうかと思えば「それとても『春と秋の奏鳴曲』が烏有の半生を予言したのではなく、彼の半生がたまさか映画の内容に酷似していたために、事件の立会人に選ばれたのだと考えれば矛盾は解消されてしまうのだ」という指摘もあって、「本格ミステリ」作品であるという固定観念で読んでしまうわたしには、こんな当たり前のことすらなかなか思いいたらない。
『ターシャム・オルガヌム』から始まったときには、いったいどんな理屈っぽい内容になるのかと心配したのだけれど、いやいやとんでもない、面白い評論でした。
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