名作トラベル・ミステリーの現場を訪れ、現地に則して作品を紹介しつつ、作品の現代的意義などでまとめた紀行書評です。
好きな評論家であり、編者を務めた『線路上の殺意 鉄道ミステリ傑作選〈昭和国鉄編〉』が予想外に面白かったので、期待して読み始めたのですが、う~ん、合わない……。
合わない理由はやはり、わたしが列車にまったく興味がなく、それゆえトラベル・ミステリーにも愛着も関心もないということに尽きます。
例えば第1回『寝台特急殺人事件』で、記者が睡眠薬を飲まされて〈はやぶさ〉から〈富士〉に移され、〈はやぶさ〉で目撃した女性が多摩川で死体になって発見されたという謎は魅力的なのに、アリバイ・トリック云々と書かれた途端に興味が失せてしまう、そんな人間には向いていない作品だったようです。
トラベル・ミステリーが好きではないので当然ながら既読の作品が少なく、純粋な評論として楽しめる回が少ないのも一因でした。
ネタバレなしという方針上からでしょうか、各回結びのまとめ部分にも著者特有の切れ味の鋭さをあまり感じられません。
種村直樹氏がミステリも書いていたとは知りませんでした。貸し切り客87名を人質に取って列車ごと津軽海峡を船で渡ろうとするとか、急遽復旧させた旧線に引き込んで停車させるとか、スケールが大きくてあらすじだけなら面白そうなのが『JR最初の事件』なのですが、やはり駅がどうとか線路がどうとか言われ出すと萎えてしまいました。
江戸川乱歩「押絵と旅する男」もなるほど列車が舞台であるからにはトラベル・ミステリーなのか、と思いつつ、アリバイものでも何でもないのに当時の復刻時刻表まで用意しているのが面白すぎました。それが鉄道オタクの感性なんだなあと微笑ましくなってしまいました。
トラベル・ミステリー・ファンもしくは鉄道ファンのための著作であり、ミステリファンや著者の評論ファンであるだけでは楽しめませんでした。
[amazon で見る]