『幻詩狩り』なんていうタイトルのくせに、狩るのがメインではなくて、幻詩が生まれてから蔓延するに至るまでの物語でした。なかなか大胆な、と思ったものですが、あとがきを読むとなるほどもともとそういうアイディアから生まれた作品だったのか、と納得。
冒頭の狩る部分についても「ノベルス的タッチを意識した」なんて微笑ましい発言があったり、ブルトンについて何か言ってたり、こういうささやかな裏話的あとがきはいいですね。
読む前はてっきり「狩る」話だと思っていたこともあり、幻詩誕生のパートを読みながらも、これは魔力を持つ詩という設定に説得力とリアリティを持たせるための書き込みなんだろうなあ、と思っていたくらいなので、筆力は随一。言語SFによく感じる荒唐無稽さみたいなものは感じられません。
実在のシュルレアリストたちも小出版社の社員たちも、生き生きしてるなあ。ダリからブルトンに宛てた手紙だとか、アルトーの詩だとか、フィクションだってわかっているのに、登場人物と一緒に思わず興奮しちゃうもの。
大きな出版社ならともかく、普通に行けば出版前に全員「解脱」してお終い――だと当たり前には思うんだけど、そこはホラーの常道、一人ずつ一人ずつで最後まで行くところに嬉しくなっちゃいます(^^;。
魔の詩ではあるけれど特に「時の黄金」でなくてもいいじゃん、というのは最後になって一応の解決を見ます。まあそこはエピローグみたいなもんで、魔の詩に犯されつつある人たちの日常が妖しげでよかったです。
1948年。戦後のパリで、シュルレアリスムの巨星アンドレ・ブルトンガ再会を約した、名もない若き天才。彼の創りだす詩は麻薬にも似て、人間を異界に導く途方もない力をそなえていた……。時を経て、その詩が昭和末期の日本で翻訳される。そして、ひとりまたひとりと、読む者たちは詩に冒されていく。言葉の持つ魔力を描いて読者を翻弄する、川又言語SFの粋。日本SF大賞受賞。(カバー裏あらすじより)
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