『社会契約論』ルソー/桑原武夫ほか訳(岩波文庫)★★★☆☆

 『Le Contrat Social』Jean-Jacques Rousseau,1762年

 フランス革命だとか民主主義だとかいうからどんなものかと思っていたのだが、社会や主権者についての現状分析は現代でも一脈通ずるものがあって、確かに分析力は鋭い。

 無味乾燥な論文かと思いきや、「もし神々からなる人民があれば、その人民は民主制をとるであろう。これほどに完全な政府は人間には適しない」を初めとするシビレル名文句もあったりする。

 ただし、一般意志というものが大前提になっているのがちょっと説明足らずだし、最終的にどんな社会が理想なのかとか、古代ローマキリスト教国家に則して説き出したあたりとかは何だかわかりづらい。

 慣習の定まった社会が革命によって「若さの力を取りもどすことがある」が、「そういう〔例外的な〕ことは、同じ人民に対して二度とは起こりえない」、なぜなら人民が自ら自由になりえるのは「未開である間だけのこと」というのも、わかったようなわからないような。年を取って偏見を持ったり、病気でそんな記憶がリセットされたりという比喩を読む限りでは、納得しそうになるけれど。

 ところどころで不用意というか言葉足らずな箇所があって、特に後半に目立つ。

 でもこういうのこそが時代を変えるんだろうな、とも思う。読んだ人間が隙間を勝手に思い込みと空想で埋めて、著者の思惑とは離れて一人歩きし始めることのできる本こそが。

 前半の分析パートが面白かった。社会や人民についての基本的概念を読むと、こんな昔にすでにこんなことを――と感心してしまう。なかでも社会契約という発想は見事です。「近代デモクラシーの先駆的宣言の書」というのも伊達じゃない。(ほんとは前半部分は宣言じゃなくて分析だけなんだけど)。
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