『The Invention of Hugo Gabret』Brian Selznick,2007年。
映画へのオマージュな感じとか、ひと味違った絵本とか、そんなのに惹かれて読んでみました。
イラスト自体が映画のコマ割りみたいに進みます。もちろんこのまま映画にしたんじゃあ、コマが飛び過ぎだし、視点の移り変わりが目まぐるしすぎて疲れてしょうがないんだけど。挿絵ではないですね。まさに絵本。絵なくしては駄目、本文なくしては駄目。とはいえそれほど圧倒的な絵でもないので、前半を読んでいるうちは奇をてらっただけにも思えてきます。
後半を読めば、ああなるほど、そういう仕掛けがこういう造本を要請したんだなあというのがわかりますが。この部分はすごくいいです。作者、偉い!と思いましたとも。映画を愛する気持はビンビンと伝わってきました。
でも……この仕掛けを含めた映画へのリスペクトやジョルジュへのオマージュがなけりゃ、厳しいんだけどなあ。
何といっても気になるのは、絵が微妙な点です。下手なのではなく、デフォルメやアレンジや個性なのかもしれませんが。
アップは上手い。著者は表情へのこだわりがあるみたいで、からくり人形をアップにするなら普通はからくり部分だろうと思うんだけど、なぜか人形の顔をアップにする。そんなこともあって、人物の表情とか、情景から一部分だけ切り取ったような、アップの静止画はめちゃくちゃ上手い。
でも絵が動き出すと途端にへなちょこになる。ものの構造というものに興味がないのか、わざと無視しているのか。だから登場人物は、小学生が描いたみたいなゴム人形じみた動きをしています。
人だけじゃなく物体の遠近感やデッサンも無茶苦茶なので、うまく決まったときは雑多なおもちゃ箱みたいな感じが出るんだけど、ひどいときは頭がくらくらする。酔っ払ったキュビストが描いたみたいな、微妙な歪み。拷問かよ。傾いた家を描いた絵を見ると、傾いた壁に歪んだドアが貼りついていて、勘弁してほしい。墓場がやたらとチープだし。
鉛筆か何かなので、柔らかい陰影はすごくよくできている。人の顔つきとか、暗がりの光なんかはすごくいい。描き込んだ部分でもうるさくないし。
第二に、ファンタジーとして。すごくお行儀のいい話です。素直じゃない大人のわたしは、はいはいそうですか。と思うだけでした。みなしごの時計職人で、父が残したからくり人形を動かすのが夢で、そのためにおもちゃを盗んで捕まって……という設定がまるで死んでます。なんか、もっと、こう、葛藤とかサスペンスとかあるだろ!と思ってしまうのですが。。。ずいぶんお利口な悪ガキです。――というかここらへんはやはり絵がメインで、絵の勢いでぐいぐい引っ張られるという読み方が正しいのでしょうか。でも、そこまでの画力じゃないんですよねえ。。。
本そのものが完全にジョルジュにおんぶに抱っこです。だっていちばん感動するのがジョルジュに関するところってのは……。
ジョルジュの作品は見たくなります。でもこの著者のほかの作品を特に読みたいとは思いませんでした。すごくいい題材をすごくいい発想で本にしたのに力足らず、そんな感じの作品でした。
30年代のパリ、秘密の部屋、壊れたからくり人形、不思議な少女、過去を捨てた老人……すべての秘密が、ひとつの夢へとつながっていく!(帯惹句より)
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