『ミステリマガジン』2008年12月号No.634【出帆せよ! 英国帆船小説】

 「ラミジ艦長」とかホーンブロワーとか有名なものは名前くらいは知っていたけれど、まったく興味のないジャンルだったので、まるで『ミステリマガジン』ではないみたいな置いてけぼり感だった。

「砲が復讐した」ピーター・トレメイン/高沢次郎訳(The Revenge of the Gunner's Daughter,Peter Tremayne,2001)
 ――ハンサムだが、性格の悪い海尉の死の真相は? 士官候補生が謎に挑むが……(袖あらすじより)

 これは帆船小説というより、船上が舞台のミステリ小説でした。厳密な犯人当て小説ではないが、それと同じテクニックが使われています。改めて見ると「砲」のことを「砲手の娘」と呼ぶのはものすごいひねくれ方で皮肉がたっぷりです。
 

トラファルガル沖海戦にて」ナイジェル・ブラウン/高橋泰邦訳(Nelson Expects,Nigel Brown,2001)
 ――熟練水兵バーニーにとっては、ネルソン提督は昔の船乗り仲間だった。(袖あらすじより)

 小説の内容よりも何よりも、「トラファルガル」という表記に目から鱗でした。イギリスの勝利として引き合いに出されるのを目にすることが多いから、ずっと「トラファルガー」だと思っていたけど、そうかスペインなのか。
 

「迷宮解体新書12 初野晴」村上貴史

「私の本棚12 村崎友

「すいません、チーフ(後篇)」ウィリアム・ジョンストン/富永和子訳(Sorry Chief,William Johnston)

「お茶の間TV劇場」04 千葉豹一郎「タイトロープ 秘密指令

「誰が少年探偵団を殺そうと。」04 千野帽子「びっくりガーリッシュ」

「新・ペイパーバックの旅 第33回=エイヴォン・ブックスのセイント・シリーズ」小鷹信光
 

「書評など」
20世紀の幽霊たちは言わずと知れたキング二世の作品。まだ未訳だったころに『S-Fマガジン』06年6月号であらすじ紹介を読んで、面白そうと書いてるな、わたしは。このころはまだキングの息子だとは知られてなかったのか。二世と聞くとネガティブなイメージの方が強くなってしまう。いかんいかん。

アーサー・ポージス『八一三号車室にて』は、『山口雅也本格ミステリ・アンソロジー』「イギリス寒村の謎」というのが面白かったので期待。パロディ・センスのある人という印象。杉江氏がおすすめの「一ドル九十八セント」は未収録らしい。チェスタトン『知りすぎた男』は当サイトでも拙訳している作品だ。ウッドハウスジーヴスと封建精神』はもちろんジーヴスもの。第九弾ですか。このまま全作紹介されるのはもう決まったようなものじゃないだろうか。

◆『シャングリ・ラ』が文庫化される池上永一の新作はテンペスト。『シャングリ・ラ』もみんな絶賛してたけど、『テンペスト』もすごいらしい。

ピーター・ラフトス『山羊の島の幽霊』。ホラーでポストモダンカフカ……と聞くと、悪い予感がしないでもないが気になることも確か。

「ミステリ雑記」池上冬樹、ふだんはおっちゃんの遠吠え的な話が多いのだが(隔離戦線路線だから?)、今回は隔離どころかど真ん中な話です。世の中狂ってる話。レンタル店にかぎらず、今や少数のバカのために大多数が巻き込まれて当然の風潮になってるもんね。

◆韓国では翻訳されたばかりの『ウォーレスの人魚』が一位、『占星術殺人事件』が五位というミステリ・ランキング。不思議なランキングじゃ。

◆DVDでは『めまい』などでお馴染みのグラフィック作家の作品集『ソール・バスの世界』が出ました。ヒッチコック作品などは未収録とのことですが、まあ有名どころはそっちで見られるし。これは楽しみです。
 

「独楽日記 第12回 世界はおれのもん――か?」佐藤亜紀
 ダメな作品に対するいつもの毒舌かと思いきや、今回は意外やずいぶんと優しいな。毒舌家からさえ思わず親身の忠告をされてしまうほど、若者がダメ過ぎるってことだろか。
 

「夜の放浪者たち 第48回=木々高太郎『人生の阿呆』(後篇)」野崎六助

「夢幻紳士 回帰篇(第四話 吸血鬼)」高橋葉介

「ポリシエの迷宮を訪ねて(2)」小山正

「藤村巴里日記(最終回)」池井戸潤
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  『ミステリマガジン』2008年12月号
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