『脳Rギュル ふかふかヘッドと少女ギゴク』佐藤大とストーリーライダーズ著/夢野久作原作(小学館ガガガ文庫)★★★★☆

 ガガガ文庫跳訳シリーズ。シリーズの発想が面白いので手に取ってみた。

 人間レコードという発想と、青年ボーイという今聞くとちょっと妙な印象の単語、列車の追跡劇、レコードの内容などなどのほかは、ほぼオリジナル。ちなみに「脳R」は「ノアール」と読むらしい。

 原作ではロシアのスパイの仕業だった人間レコードを、謎の宇宙電波という設定にし、しかも文字どおりレコードだった原作とは違い、受信した人間はグロな化け物になってしまうという作品でした。

 脳Rを処理する機密局の抹殺実行役のギヤマとセンサー役のシイのパートが互い違いに語られる二部構成。だけどシイのパートはほとんど学園小説というかラブコメ小説というか、オーバーアクトな直情型女子高生に勝気な子とお嬢様というお約束の取り合わせで話が進む。原動力は恋愛パワーなんだけど、それが脳Rパートとを結ぶ役割も果たしています。

 ギヤマの方はひたすら対象の脳Rを追って追って追いまくる。といっても特殊能力の枯れてしまった人間なので、ゴーストハンターものというよりは普通の探偵ものである。殴ったり蹴ったり推理したり。対象に肉薄できるきっかけになる理屈ってのが屁理屈っぽいんだが。引き抜くなら引き抜くで、ちゃんと手順を踏んで、荒立てず、騒がず、急がずってことなのかな。

 無駄にエロマンガみたいな設定が面白いんだけど、いやしかし共振者に対する少年ボーイの態度とか女子高生たちの男に対する愚痴とかを考えるに、案外に男根男権社会やら何やらに対する何らかの意図があるのかもしらん(ないのかもしらん)。ていうかもう一つの原作「火星の女」がらみか。ああ、ということは脳Rが宇宙からってのも「火星の女」からなんだなあ。

 巻頭の猟奇歌もぴったり来てるし、大胆な翻案に見えて、意外とけっこう細かいところまで夢野テイストの詰まった作品のようです。

 ふかふかヘッドっていう表現が、ぽくてよい。あーなっちゃってる人の婉曲的表現なんだろうけど。だけど変なルビはやめてほしかったな。

 「セカイの終わり」という思わせぶりなシーンとか、人類の進化とか、脳Rの正体については二作目以降ということらしい。

 2007年人類は宇宙からの“脳R電波”による驚異(ママ)にさらされていた。その怪電波を受信した者は脳髄を浸され、果ては人体各部から卑猥な花弁を吹き咲かせながら絶命する。脳R化した人間を追って、幻想都市、トウキョウ孤区のビルヂング群を駆けめぐる中央機密局一の危険人物、対策員“青年ボーイ”ギヤマと、夢見がちで妄想過多な天然元気女子高生対策員“少女ガール”シイ。群衆に紛れ込む脳R人間にシイが下半身で共振反応したとき、ギヤマの握る吐出ガンの引き金は下ろされる! 異端文学の魔人・夢野久作のスパイSF短篇「人間レコード」を佐藤大が大胆に“跳訳”! 前代未聞・空前絶後の綺想活劇ラブストーリー!!(カバー裏あらすじより)
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