『ナイトランド・クォータリー』vol.14【怪物聚合 モンスターコレクション】

「Night Land Gallery 太田翔 身近な異世界からの訪問者」

「他人の密会(1)パルミジャニーノ、美少年の怪物」柏木静
 「魔の図像学」に代わる新連載。文学めいた表現をせず理路整然と解説してほしい。
 

「南山宏インタビュー UMAの正体は謎のM」採録・構成:牧原勝志
 『SFマガジン』2代目編集長、『ムー』顧問、UMAという言葉の発案者。
 

菊地秀行インタビュー 私のモンスター映画セレクション」採録・構成:牧原勝志
 『キング・コング』について、「人間との交情を描く方に行ったのは、間違いだったんじゃないかな」。その通りです。「モンスターが出てくるまでが怖い」『放射能X』。「カメラワークが実にいい」『黒い蠍』。ラヴクラフト「異次元の色彩」の映画化『襲い狂う呪い』や、ゴーゴリヴィイ」の映画化『妖婆 死棺の呪い』。『タイタンの戦い』『シン・ゴジラ』など。
 

「海のモンスターとの攻防」甲斐呈二
 最新鮫映画『MDG ザ・モンスター』紹介。
 

「藤原ヨウコウ・ブンガク幻視録(6)萩原朔太郎「ウォーソン夫人の黒猫」より」

「副葬品」ジェマ・ファイルズ/小椋姿子訳(Grave Goods,Gemma Files,2015)★★★★☆
 ――今回調査する古墳は紀元前六千五百年頃のものと考えられている。ルーウィン博士は女性だけを調査隊のメンバーに選べば発掘が円滑に進むと考えていたようだが、ベグ博士とハキュラック博士は対立ばかりを繰り返していた。埋葬されていた遺骨は現世人類のものとは異なっており、遺骨も副葬品も彩色されていた。原住民の伝説にある怪物の話を聞いたアレサは、憑かれたように古墳を掘り始めた。

 触れてはならない場所に足を踏み入れて、おぞましい存在と遭遇してしまう……という話はよくありますが、女同士の口げんかが前半の主要部分だったり、「モルダー、あなた疲れてるのよ」という揶揄など、古いなかにも新しいものがありました。女だけの調査隊という設定に加えて、アレサの第二次性徴が遅れているという事実からはフェミニズムっぽい傾向を感じ取れましたが、実はそれがミスディレクションとして機能していたりと、意外と凝っていました。
 

「STRANGE STORIES――奇妙な味の古典を求めて(11)銀仮面作者の奇妙な味」安田均
 「銀の仮面」のヒュー・ウォルポール。「銀の仮面」自体が奇妙な味の代表的古典なのですが、ウォルポールのそれ以外の奇妙な味作品が紹介されています。
 

「空腹」スティーヴ・ラスニック・テム/待兼音二郎(Hungry,Steve Rasnic Tem,1993)★★★☆☆
 ――ママ……死産の子どもに名前なんかつけるものじゃない。だけどこの声の主は死産の子ではない。ジミー・リーが戻って来たのだ。見世物一座に加わるために家を出て行って以来だ。最近は映画の怪物役に出ているという。ビビアンの摂食障害はジミー・リーのせいだとレイは言う。今も暗がりの向こうに見える肉の塊は馬だったものだろうか。

 これまでも「黒い鳥のいる麦畑」や「海辺の家にて」などが掲載されて来たスティーヴ・ラスニック・テムの作品です。何でも食べる怪物を引き取った夫婦の苦悩が描かれていました。妻を気にかける夫、息子を無下にはしない父親、深い愛情で結ばれた母子……グロテスクで気持ち悪いことこのうえないのに、それでも親子の情愛を魅せているところに著者の力量を感じます。とは言えさすがに結末は安っぽいホラーめいてしまっています。
 

「生き残ったもの」ジャック・ロンドン/植草昌実訳(A Relic of the Pliocene,Jack London,1901)★★★☆☆
 ――トーマス・スティーヴンスがほらを吹くようなら俺は聞いてやるつもりでいた。彼は履いている長靴を見せた。こんな毛の生えている獣など出会ったことがない。「こいつはマンモスの皮だ」「おいおい、マンモスってのは大昔にいなくなっちまったやつだろう?」「たしかにマンモスはもういない。俺がこの腕で仕留めたからさ」

 これは明白に法螺であることがわかるトール・テイルでした。ああ言えばこう言うトーマスの屁理屈が楽しい。
 

「空き家対策課」伊東麻紀 ★★☆☆☆
 ――不自由を耐え忍びながらも愛着のある家にしがみついていた老人が亡くなると、しばらくしてそこにゾンビさんが湧く。ゾンビさんは粘土の人形と同じ程度にしか人間には似ていない。はっきり顔立ちを見分けられるほどではないが、人によってはそこに死者の面影を投影してしまうこともある。

 怪異に対して役所が対応するようになった世界というよくあるパターンです。非日常が日常になったことで異化効果があるわけでもなく、役所の苦労が描かれるでもなく、ゾンビさんと対峙した人々が改めて死と向き合うわけでもなく、ただただ日常が雑記的に描かれます。良く言えば特別ではない日常がちゃんと特別ではない日常として描かれていると言えます。
 

「〈名作ガイド〉ショート・モンスター・コレクション」牧原勝志
 ポオ「スフィンクス」、E・F・ベンスン「恐怖の峰」、コリア「ある湖の出来事」、ブラッドベリ「霧笛」、ボーモント「フリッチェン」のあらすじと簡単な紹介。
 

「侵入者たち」リサ・タトル/小椋姿子訳(Replacements,Lisa Tuttle,1992)★★★★★
 ――歩道を見下ろすと、猫くらいの大きさで皮膚には毛がなく、光る小さな眼と切り傷のような口をした、不格好な生き物がいた。スチュアートは嫌悪感から力任せに足を踏み降ろした。虫でさえ殺したことはなかったのに。妻のジェニーはすべてが順風満帆だった。口には出さないがスチュアートにはそれが不安だった。ある夜、帰宅したジェニーがバッグに保護していたのは、あの動物だった。「ペットを飼ってみるってどうかしら」。スチュアートは反対しようとしたが、逆にジェニーから邪険にされるようになった。

 いろいろな読み方ができます。そのものずばりペットに異常な愛着を持つ妻とそれに着いていけない夫の夫婦生活が崩壊する話という不幸なあるあるもの。実は周りが正常なのに主人公のスチュアートには異様なことのように見えている可能性。ジェニーが餌をあげている場面でそれは否定されたかにも思え、そうなると純粋な怪奇譚となりますが、あるいはその場面すらスチュアートの幻視もしくは著者による何かの暗喩の可能性。じわじわと浸食されてゆく恐怖と居場所を奪われてしまう喪失感に、胸がきりきりと痛みます。
 

「エジプトの雀蜂」アルジャーノン・ブラックウッド/牧原勝志訳(An Egyptian Hornet,Algernon Blackwood,1915)★★★☆☆
 ――ミリガン牧師が浴室に入ると、雀蜂がいた。浴室係を呼ぼうとしたとき、飲んだくれのマリンズ氏の足音が廊下に聞こえた。悪魔の誘惑がミリガン師の頭に閃いた。雀蜂をやり過ごして浴室を出ると、入れ違いにマリンズ氏が浴室に入っていった。

 いろいろ蘊蓄は書かれていますが雀蜂の怖さは伝わって来ません。それよりもやはり、雀蜂を契機としたミリガン師の出来心と汚辱に憐れみを感じます。
 

「『幻獣辞典』と〈怪物〉をめぐる解釈学」岡和田晃
 いくつかのキーワードを手がかりにして自在に〈幻獣〉を渡り歩く手つきが鮮やかです。
 

「ラメトリー湖の怪物」ウォードン・アラン・カーティス/甲斐呈二訳(The Monster of Lake Lametrie,Wardon Allan Curtis,1899)★★☆☆☆
 ――ラメトリー神父によれば地球の内部は空洞であり、かつて地上にいた動植物が棲息しており、湖がその空洞と地上を結んでいるという。この湖はその説の裏付けとなる。黒い丸太と見えたものは長頸竜だった。手斧を喰らわせ昏倒させると、脳の摘出手術にかかった。空洞は人間のものに似ているが、人間の方が知能が高いようだ。傷が治りかけており、脳がなくても生きていけるようだった。

 古典新訳。乱歩が「怪談入門」で少年時代に読んだものの作者不明と語った作品で、マッド・サイエンティストによるトンデモ手術が扱われた珍品ですが、乱歩がらみでなければ発掘されることもなかったろうと思います。
 

「少年探偵リチャード・リドル 〈フランス密偵事件〉」キム・ニューマン/植草昌実訳(Richard Riddle, Boy Detective in "The Case of the French Spy",Kim Newman,2005)★★★★★
 ――ディックとヴァイオレットと二歳年下のアーネストはすぐに仲良くなった。ヴァイオレットが見つけたアンモナイトの化石を、セルウッド牧師は悪魔の置き土産だと言って破壊してしまった。少年探偵リチャード・リドルが悪人を見誤ることはない。セルウッドは密輸業者か密偵だ。セルウッドの悪事を暴こうとするディックは、セルウッドが牧師でも何でもなく『悪魔の臍』という書物を著した狂信者だと知る。しかもセルウッドの祖父はナポレオンの密偵を殴り殺したと伝えられていた。そのフランス人には首に鰓があり、水の中でも呼吸ができた。

 著者自身があとがきで元ネタを明らかにしているとおり、キム・ニューマンらしくさまざまな要素が詰まった作品です。クトゥルーとナポレオンの密偵がちゃんと一つになってしまうことに驚きますが、出来上がったそれが『グーニーズ』みたいな少年少女の冒険ものだというのがまたすごい。各章の章題を換字すると、I「wrong-doing afoot on the shingle」、II「If it was easy to find, it wouldn't be hidden」、IV「an oubliette」、V「Diabolicus Maritime」、VI「well brought-up in R'lyeh」、VII「Anthropos Icthyos Bioletta」となる。
 

「【未訳書紹介】ペーパーバックに潜む怪物たち」植草昌実
 最近の作品三作が紹介されています。アンソロジー『Creatures: Thirty Years of Monsters』など。
 

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