『Tiger! Tiger!』Alfred Bester,1956年。
解説に引用された文章のなかで、デーモン・ナイトが「小説六冊分ものすばらしいアイデア」と述べているけれど、まさにそのとおりで、『モンテ・クリスト伯』みたいな一大復讐譚だと思っていたのに、いきなり帰還できていきなり目指すところを見つけられていきなり捕まっていきなり……というように、こちらの思っていたような復讐ものの展開は、ほとんど前半も終わらないうちに出尽くしてしまうのです。あまりにテンポがいいせいで、全篇を覆い尽くす激しさのわりには、復讐譚として全然ねちねちしてもいないし陰惨でもありません。
ジョウントという設定に作品的にどんな意味があるのだろうと睨みながら読んでいたのも忘れてしまうほどに、めまぐるしい。いや、それに限らず、すっかり忘れたころに「おお、あのエピソードが!」という展開になったりして、めまぐるしいうえに伏線も張りまくりで、脳みその安まる暇がありません。『ゴーレム100』も面白かったけど、向こうがどっしり構えてる感じだとすると、こちらは〈動〉、作品を構成する粒子がつねに互いにあちこち飛び回っている、生き物のかたまりのような作品でした。
“ジョウント”と呼ばれるテレポーテイションにより、世界は大きく変貌した。一瞬のうちに、人びとが自由にどこへでも行けるようになったとき、それは富と窃盗、収奪と劫略、怖るべき惑星間戦争をもたらしたのだ! この物情騒然たる25世紀を背景として、顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァー・フォイルの、無限の時空をまたにかけた絢爛たる《ヴォーガ》復讐の物語が、ここに始まる……鬼才が放つ不朽の名作!(カバー裏あらすじより)
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『虎よ、虎よ!』
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