『ウィッシュ』『ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出』(ディズニー,米,2023)★★★☆☆

『ウィッシュ』『ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出』(ディズニー,米,2023)

 『WISH』『Once Upon A Studio』

 クリス・バック他監督。ジェニファー・リー脚本。生田絵梨花福山雅治他吹替。

 本篇上映前に、ディズニーキャラ大集合の記念撮影短篇『ワンス・アポン・ア・スタジオ』が上映されていました。

 前評判では世界各国で予想興行収入を下回った失敗作との言われよう。やれポリコレにうんざりだの、やれディズニー自体が落ち目だのの声が聞こえていました。

 実際に観てみたところ、まずポリコレ云々はあまり感じませんでした。顔や指がデフォルメされているのにアーシャのそばかすだけがリアルだったのが不自然なくらいでした。白雪姫やシンデレラでは悪いお妃や継母だったポジションが悪い男の王様になっているのも、ことさらに言うほどではないでしょう。アーシャの祖父サバが老いて背が曲がってがに股で虫みたいな気持ち悪い動きをすると感じてしまったのですが、これはあるいは『ノートルダムの鐘』のような障害を持った描写だったのかもしれせん。

 肝心のストーリーは、100周年記念ということで、『ウィッシュ』のタイトル通り「星に願いを」になぞらえたものでした。

 魔法使いの王様が治めている国ロサスでは、18歳になると願い事を王様に差し出す決まりでした。年に数回、国王マグニフィコに選ばれた願い事が叶えられていましたが、願い事を差し出した本人は願いの内容を忘れてしまうのでした。18歳を控える少女アーシャは、王の弟子になり100歳になる祖父サバの願いを叶えてもらおうとします。ところが国王は、音楽で人の心を動かしたいというサバの願いを、他人に悪影響を及ぼす恐れがあると判断しました。そうして永遠に叶えられないまま朽ちてゆく願いがあることを知ったアーシャは、国王からサバたちの願いを取り戻して解放しようとします。そうして夜空に願ったアーシャの許に、星が訪れるのでした。その星の光を見た国王は、違法に魔法を使った者がいると考え、反乱者を見つけようと血眼になりました。

 星に願いを=他力本願なのに、願い=希望の力みたいなテーマなのは、焦点がぼやけているんじゃないかという気がします。

 アーシャは正義感が強いとかいうわけではなくただわがままなだけで、自分と違う考えの相手を悪と決めつけるようなところはありますが、へたに葛藤などしても間延びするだけですし、映画ではよくある性格付けの範疇でしょう。

 星が神様の使いというわけでもなく、星自体に何かの意思があるわけでもなく、ただアーシャの願いを叶えるためだけにやって来たという、よくわからない存在でした。媚び媚びのデザインの、丸っこい星です。それこそ昔のディズニーだったら、人型や動物型の存在が星を背負っているようなデザインだったんじゃないかと思いました。この星が何の意味もなく動物に言葉をしゃべらせ、歌を歌わせます。確かにディズニーっぽいですよ。アーシャと飼い山羊のやり取りだったり、鶏のミュージカルだったり。でもそこに至るのに、ただの星の気まぐれじゃなく、もう一工夫ほしかったところです。

 王様が「鏡よ、鏡」のオマージュをするナルシストの魔法使いで、こいつがまあ表情豊かに歌うわ踊るわ怒るわ願いを吸収してパワーアップするわの面白い奴でした。(表向き)慈悲深き王から、ただの支配欲の塊へと化けの皮が剥がれ、遂には黒魔術に自我を奪われるまで、文字通りの独壇場です。悪役が一人だけなので、悪役シーンのいいところは全部この人が持っていくんですよね。

 ほかにもアーシャの友人=七人の小人のオマージュなど、いろいろとまぶされているようですが、全体的に取って付けた感じで、オマージュの悪い例だと感じました。記念作品って、意識しすぎたりしがらみがありすぎたりで、たいてい微妙になってしまうんですよね。批判されるほど悪くはないけれど、名作とは言えない作品でした。

 


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