『藤井寺さんと平野くん 熱海のこと』坂口安吾原作/樺薫(小学館ガガガ文庫)★★☆☆☆

 跳訳シリーズ第三弾。今回は坂口安吾「投手殺人事件」ほか。

 ――ですが、あらら。たぶんこういうのが宇野常寛氏が言うところの「レイプ・ファンタジー」なのでしょうか。あらゆるものごとがエロオヤジの都合の良い視点で描かれていて、セックスシーンのないポルノ小説を読まされた気分です。

 事件そのものは短篇の分量で、大半はキャラ立ちしたキャラたちのピントのずれた会話や説明的なボケとツッコミで占められているのはこの手の作品のお約束なので仕方ないとして。(個人的にはまったく面白いとは思いませんが)。

 海野十三の原作をなぞっただけのゆずはらとしゆき『十八時の音楽浴』と比べれば、活躍するのが探偵たちの孫というどっかで見たような設定や、近鉄バッファローズという特定の球団と野球に対する思い入れと「投手殺人事件」を接ぎ木しようとする意欲(結果的にあんまり接ぎ木されてないけど)など、独立した作品として楽しめました。

 藤井寺さん。神宮球場の片隅で、データブックを積み上げ書き物をするベースボール・フリークは、謎の魔球を操った名投手・大鹿煙の孫娘。祖父を球史の闇に葬った「投手殺人事件」の真犯人を知るために、彼女は熱海へ向かう。夏休みに、僕・平野謙と。妖しげな女性を連れた老警部・居古井、ホテルの若女将・伊勢崎九太夫に下品な探偵・巨勢羽華世が披露する新推理。事件の真相は球史を変えるだろうか。そして僕たちは――。謎と海と温泉が奏でる湯の町エレジー坂口安吾作品を「跳訳」した、あらゆる予想を裏切る“野球ポエム”。
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