『エア』ジェフ・ライマン/古沢嘉通・三角和代訳(早川書房プラチナ・ファンタジイ)★★★★☆

 『Air(or, Have Not Have)』Geoff Ryman,2004年。

 何か月か前にテレビで、アフリカの田舎の農村にインターネットが導入されたというニュースが報じられていました。それまでは、都市部の物価が上がっているのに仲介業者から受け取る金額は何年も同じままだったけれど、インターネットで情報収集力が飛躍的に上がることで対等な取引ができるようになるはずだ、というような内容でした。

 本書も、導入とメイン・ストーリーの根っこはそれに近い。絵に描いたような田舎者と愚か者ばかりの町に、テレビと脳内ネットが導入されて……自分も変わり、町人たちの意識も変えようと奮戦する、闘う女のサクセス・ストーリーみたいな話です。

 そこに脳内ネット〈エア〉の存在がからんできて、エアのテスト中の事故で死亡した老婆の意識と、主人公は接続されてしまい……という時点で神秘思想系の話になるのかなあと危惧したのですが、そこに「逃げ」ない作品でした。

 「(主人公のような)人間くさいおばさんが心に住んでいない人には、向かないかもしれない」という訳者あとがきに笑いましたが、確かに俗物というか下世話というか、バイタリティーにあふれています。

 2020年、中国、チベットカザフスタンに国境を接する山岳国家カルジスタンのキズルダー村では、先祖伝来の棚田を耕し、昔から変わらぬ生活を続ける人々が暮らしていた。中国系女性チュン・メイは、そんな村の女性のために、町にでかけてドレスや化粧品を調達し収入を得る“ファッション・エキスパート”だった。

 ある日、キズルダー村で、新システム〈エア〉のテスト運用が行なわれることになった。〈エア〉は脳内にネット環境を構築し、個々人の脳から直接アクセスを可能にする新ネットワーク・システムで、一年後の全世界一斉導入が予定されていた。

 だが、テストの最中に思わぬ悲劇が起きる。メイの隣人タンおばあさんが、システムの誤作動が原因で事故死してしまったのだ。テスト中、メイは〈エア〉内でタンおばあさんと交感、彼女の全人生を体験する。それ以降、おばあさんの意識はメイの脳内に住みついてしまうが、まるでその代償であるかのように、メイは偶然〈エア〉にアクセス可能なアドレスを取得する。それをきっかけにメイの人生は急転回を見せはじめる。〈エア〉がメイに、そして人類にもたらすものとは……。

 SF界を代表する物語作家が、異質なテクノロジーとの出会い、アジアの小村から世界を変えることになるひとりの女性の人生を、ストレートに描いた巨篇。英国SF協会賞/アーサー・C・クラーク賞/ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞受賞。(カバー袖あらすじより)
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