「暗黒整数」グレッグ・イーガン/山岸真訳(Dark Integers,Greg Egan,2007)★★★★☆
――サムから連絡が入った。こちら側の何者かが境界を跳びこえたというのだ。跳びこえた? ぼくは唖然とした。〈不備〉を悪用しようとする工業代数社の仕業だろうか?
イーガンは苦手なので飛ばそうと思ったのだけれど、「ルミナス」の続編だというから読んでみた。理論の部分はちんぷんかんぷんなので、そういう大事なところを無視することにする。そうしたら、スーパーマンなどのヒーローものみたいな話だった。自分の使命を恋人には隠している主人公に、世界の危機と夫婦の危機が同時に襲いかかる。さあどっちを取る?とかいうような。でもやっぱりアクションなんかしないぜ。パソコンのディスプレイに向かって戦うんだぜ。――「ルミナス」から数年が経ち、家族もできて協力者も増えて現実世界にも影響を及ぼして……というように、現実との関わりが強くなっています。それを「社会性」といって評価することもできるのでしょうけれど、大学の専門オタクが真剣に遊んでたみたいな「ルミナス」の方がはじけてました。特集三作のなかではベスト。
「受け継ぐ者」エリザベス・ベア/田中一江訳(Tideline,Elizabeth Bear,2007)★★★☆☆
――戦火をくぐり抜けて生き残った最後の戦闘用マシンは、浜辺で幼い少年と出会った……。 たとえばケリー・リンクをはじめとした、主流とスリップ・ストリームの境目にいるような現代アメリカ女流作家たちの諸作と比べると、「物語ること」についての描き方が驚くほどにストレートです。
「フィニステラ」デイヴィッド・モールズ/三角和代訳(Finisterra,David Moles,2007)★★★☆☆
――飛空技師の家に生まれた女性は、空への憧れを捨てきれず浮遊生物の密猟に携わるが……。浮かぶ珊瑚みたいな島、そこに住む不法居住者、密猟、人間狩り、地元と〈異星生まれ〉、経済格差……とSFの地盤に現実問題が盛り沢山に盛られているのだけれど、主役の女性があまりにも何も知らない若気さんなところが、問題を浮き彫りにするというよりわざとらしさを際立たせてしまっています。
「受賞長篇レビュウ/SFスキャナー特別版」「英米SF注目作カレンダー2007」「英米SF界の動向+2008年度受賞作リスト」
新潮社から邦訳予定のマイケル・シェイボン『ユダヤ人警察官友愛会(The Yiddish Policemen's Union)』、『ライト』の続編M・ジョン・ハリスン『ノヴァ・スウィング(Nova Swing)』あたりが気になりました。
「My Favorite SF(第39回)」三雲岳斗
ホーガン『星を継ぐ者』。
「SFまで100000光年 66 物質系一家団欒」水玉螢之丞
前回からの続き。『こなぷん』なるものを初めて知りました。面白そう。
「SF BOOK SCOPE」林哲矢・千街晶之・牧眞司・長山靖生・他
気にはなっているけど買ってはいないのが伊藤計劃『ハーモニー』、年刊SF傑作選『虚構機関』、買ったけど未読なのがエムシュウィラー『カルメン・ドッグ』、読んだのがフィッツ=ジェイムズ・オブライエン『金剛石のレンズ』、小松和彦『百鬼夜行絵巻の謎』。
「地球移動作戦(第8回)」山本弘
「魔京(17)」朝松健
「おまかせ!レスキュー Vol.129」横山えいじ
「乱視読者のSF短篇講義(第11回)フィリップ・K・ディック「にせもの」」若島正
ものすごい久しぶり。次回(最終回)はレム。ディックからレムという流れがなんか、いいです。
「大森望の新SF観光局」3 年刊SF傑作選のつくり方
「デッド・フューチャーRemix」(第78回)永瀬唯【第13章 ハイ・フロンティア】
「(They Call Me)TREKDADDY(Log.23)」丸屋九兵衛
「サはサイエンスのサ 168」鹿野司
今回は鹿野氏だけでなく、金子隆一氏も「ドリーム・マシン」の話でした。
「Reader's Story」(「時間刑」曽田修)
「マイクル・クライトン追悼特集」酒井昭伸、瀬名秀明、巽孝之
「MAGAZINE REVIEW」〈アナログ〉誌《2008.7/8〜2008.11》東茅子
「シズル・ザ・リッパー」菅浩江
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『SFマガジン』2009年3月号
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