『ミステリマガジン』2009年05月号No.639【特集 チャンドラーと村上春樹解体】

「迷宮解体新書11 浅暮三文

「私の本棚17 平岡敦」

「特別対談 殺し屋は六本木でジャズを聴く」バリー・アイスラー×渡辺祥子

「さよなら、愛しい人(先行掲載冒頭3章)」レイモンド・チャンドラー村上春樹(Farewell, My Lovely,Raymond Chandler,1940)
 ――私立探偵マーロウが酒場で会った大男マロイは女を探していたが……。

 春樹新訳チャンドラー第二弾。邦題にびっくりしました。「大鹿」ならぬ「へら鹿」マロイのワケは割注に。

「へら鹿《ムース》を追って」村上春樹
 単行本あとがきの抜粋。

「夢果つるところ 退廃と再生の町ロス・アンジェルス」東理夫

「わが青春のチャンドラー 村上春樹の新訳で読む楽しみ」権田萬治
 『長いお別れ/ロング・グッドバイ』に出てくる「September Morn」について。おお、たしかにはだかです(^^。むちゃくちゃ納得の譬喩だったんですね。Paul Émile Chabas。

村上春樹の中のチャンドラー」末國善己
 特集タイトルとは裏腹に、村上春樹特集といえるのはこのエッセイくらいです。

「『さよなら、愛しい人』の音楽の世界」村岡裕司

「アイドル・ヴァレーの夏」ロジャー・L・サイモン/木村二郎(Summer in Idle Valley,Roger L. Simon,1999)★★★☆☆
 ――男が自殺から救った人物は、レイモンド・チャンドラーだった――

 増補版『フィリップ・マーロウの事件』より。冒頭からくどいくらいに延々と「私は数日分の呼吸可能な空気と、どこかの子供が化学実験セットで合成したような味ではないアップル・パイを求めて」というようなビミョーな譬喩が続くし、結末も“これを言わせたかったんだ”というのをむりやり言わせたようなところがあり、総じてややアイデア倒れの感あり。
 

「盤上の人生」J・マディスン・デイヴィス/菊地よしみ訳(Sixty-Four Squares,J. Madison Davis,1999)★★★☆☆
 ――マーロウの依頼人が殺された事件は彼の心に波紋を呼ぶ。

 マーロウが自分の考えを一人称で口にする、というのには台無し感がありますが、まあこういうのも、原作者には絶対に書けなかったマーロウものという意味ではいいのかもしれません。チェスの絡め方がわざとらしいのがいまいちです。アクションシーンが下手(?)な気もします。
 

「犬が好きだった女」霞流一★★★☆☆
 ――探偵犬アローは大食いマボンの依頼を受けて消えた女を探す。

 長篇『ロング・ドッグ・バイ』の探偵犬が活躍する短篇作品。ハードボイルドというか、浪花節おセンチな犬(バカ)物語。「大食い」というのを単なる駄洒落に終わらせないところが本格ミステリ作家たるゆえんでしょうか!?
 

「フォールト・ライン/断たれた絆(長篇抄)」バリー・アイスラー横山啓明(Fault Line,Barry Eisler,2009)
 掲載予定だったカズオ・イシグロ「老歌手」に代わって掲載されたもの、とのことです。

「オッドな人生を、チクタクと進め ディーン・クーンツの足跡をたどる」瀬名秀明
 『オッド・トーマスの霊感』の紹介――ではなく、「イメージの刷新を図」るためにクーンツの経歴を改めて紹介。なるほど詩の絵本『Santa's Twin』『The Paper Doorway』『Every Day's a Holiday』『Robot Santa』とか、表紙がガラスの『The Book of Counted Sorrows』とかは読みたく(欲しく)なってきます。

「沈黙の時代の作家(第3回)」サラ・パレツキー山本やよい

書評など
◆「文学寄りの作品」ドン・デリーロ『堕ちてゆく男』、アラヴィンド・アディガ『グローバリズムいずる処の殺人者より』の二作が二作とも面白そう。後者はブッカー賞受賞。

P・J・ランベール『カタコンベの復讐者』はすっかりお馴染みになったパリ警視庁賞受賞作品。……とか言いつつ、二作目の紹介作『ヴェルサイユの影』ががっかりだったので、三作目『第七の女』は読んでないのですが……。

異形コレクション『幻想探偵』。最近の異形コレクションは面白そうなのが多い。

「文芸とミステリのはざま」
 白水社の新シリーズ〈エクス・リブリス〉第一弾デニス・ジョンソンジーザス・サン』。「これはカーヴァーをさらにとんがらせた感じだな」(柴田元幸)だそうです。

「SFレビュー」大森望
 チャールズ・ストロス『アッチェレランド』。非SF読者向けの説明なので、ものすごくわかりやすいです。

都筑道夫ポケミス全解説』の紹介は、作品紹介であると同時にいきおい評者の「批評」観の紹介にもなります。大事なのは三つのR、なるほどなあ。

◆洋書案内ではスペインミステリが紹介されてます。スサーナ・フォルテス(Susana Fortes)『クアトロチェントQuattorocento』は中世ミステリ。英訳版あり。

◆今月はDVDもスペイン映画。『THE CRIMES/タイムクライムス』は、「時間テーマのSFとしては、よくある話」だが、「ヒッチコック・タッチのサスペンス・スリラーとして再構築したところがおもしろい」「スペイン語圏の作品らしく、不思議な迷宮感覚に満ちている」「物語の構造といい、登場人物の処理の仕方といい、短篇SFの名手ウィリアム・テンの代表的傑作の某作品の影響を大いに感じる」などなど、こうして紹介されるとものすごく面白そうです。
 

「独楽日記(第17回) B級の極致、最暗黒オペラ『トスカ』」佐藤亜紀
 次の千野帽子の連載とあわせて読むと、何やら「ううむ」とうなって考え込みたくなるようなところがあります。
 

「誰が少年探偵団を殺そうと。」09 千野帽子「まず声変わりを終わらせろ。話はそれからだ。」
 「「自分がおもしろがれないものを好む他人は、自分と違って〈ストイックで求道者的〉で〈芸術的で窮屈〉にシリアスになにかを追求しているのだ」と思わなければプライドが傷つく」し、「自分にとって難解で退屈なものを、べつの人間が娯楽としてただ享受していると考えただけで(中略)勝手に「負けた感」を抱いてしまうのかもしれない」ゆえに、“自分は娯楽を求めているんであって難解なのは求めてない”と断じる「下から目線」について。
 

「日本映画のミステリライターズ(33)和田誠(II)と『真夜中まで』」石上三登志

「仁賀克雄のできるまで(1)ワセダ・ミステリ・クラブの結成準備」仁賀克雄
 サラ・パレツキーの連載といい、この新連載といい、オールド・ファンには嬉しい(?)連載がはじまりました。

「ミステリ・ヴォイス・UK」(第17回 テレビ・ドラマ「半身」)松下祥子
 サラ・ウォーターズの新作『The Little Stranger』が6月に(本国で)刊行予定だそうです。とすると邦訳は早くても来年かな。レズビアンが登場しないのでレズビアン読者からクレームが来たのだそうで、う〜ん、シリーズ探偵が出てこないからファンが怒ったとかいう感じに近いのかな?
 

「僕は長い昼と長い夜を過ごす」小路幸也

「夢幻紳士 回帰篇(第九話)蜘蛛」高橋葉介

「旅人本の虫レベ(17)」レベッカ・スーター

「紙の砦の木鐸たちの系譜(9)」井家上隆幸

「ヴィンテージ作家の軌跡(73)」直井明

「お茶の間TV劇場(9)バーボン・ストリート」千葉豹一郎

「夜の放浪者たち 第53回 小栗虫太郎『悪霊』(前編)」野崎六助

「郭公の盤(7)」牧野修田中啓文
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