『The Little Tales of Smethers and Other Stories』Lord Dunsany,1952年。短篇集なのでちまちま読んでちまちま感想をメモした。読み返してみたら走り書き過ぎて自分でもよくわからんくなってる。
「二壜の調味料」(The Two Bottles of Relish)★★★☆☆
――その娘の生きている姿を二度と見たものはいません。娘の預金が引き出され、男が急に菜食主義者になりました。庭の木を斧で切りたおしはじめましたが、斧に血はついてませんし、木を焚いてもいません。
いわずと知れた名作で、何よりも最後の一言に尽きます。
「スラッガー巡査の射殺」(The Shooting of Constable Slugger)★★★☆☆
――以前、スティーガーという殺人犯のお話をしたことがあります。友人のリンリーが犯行方法をつきとめたんですが、警察は絞首刑にすることができませんでした。そこで警察は彼の動向をうかがっていたんですが、スラッガー巡査が殺されたんです。射殺されていたのに、弾丸は見つかりませんでした。
あの「二壜」に続編があるという話だけは知っていたものの、まさかこんな展開だとは思いもよりませんでした。ただ単に同一探偵役が登場するシリーズものなのかと思っていたのですが、こんなだったとは。怪盗ものとかならともかく、殺人犯でこれは驚きました。
「スコットランド・ヤードの敵」(An Enemy of Scotland Yard)★★★☆☆
――スコットランド・ヤードに脅迫状が届きました。三人の警官がいつも行く場所に出かけたら、その警官を殺すというものでした。一人はクラブで毒殺され、一人は店の入口で壁の破片が落下して死にました。最後の一人は明日フットボールの試合をする予定です。
リンリーによる「あなたは歳をとりすぎている」という台詞がありますが、この件の真相については現在読んだ方がかえって盲点かも。本篇にしても「二壜の調味料」にしても、スメザーズの職業が活かされて、ワトスン役にしてなかなかの活躍ぶりです。そのくせ警部に無視されたりピントのずれたことをしゃべって反省したりと、スメザーズの駄目キャラぶりが読んでいて面白い。
「第二戦線」(The Second Front)★★★☆☆
――スティーガーのことは忘れていらっしゃらないでしょう。わたしの知る限り、二人殺した殺人犯ですが、今ではスパイとなって大量殺人に走ったそうです。第二戦線の場所をドイツに知らせるのを阻止しなくてはなりません。
情報の伝達方法は単純ですが、「ずっと短いから」だという理由に妙にリアリティがあって、そこが印象に残ります。一つ一つの作品はあまりインパクトがないのですが、何話も読んでくるとだんだん味が出て来ました。
「二人の暗殺者」(The Two Assassins)★★★☆☆
――サン・パラディソの大統領がロンドンを訪問することになりました。そして、手短に言うと、スコットランド・ヤードはその席で大統領が暗殺されるという情報を掴んだのでした。
これは意外な暗殺方法というよりも、探偵方法の発想の転換が面白い。パロディすれすれの捜査方法に、このシリーズのユーモア感覚が現れています。
「クリークブルートの変装」(Kriegblut's Disguise)★★★☆☆
――警察が恐れていたスパイが一人いました。実に頭が切れて、警察は歯が立たなかったのです。
(期待していなかった分?)意外とびっくりしました。このシリーズは語り口がマイペースであんまりミステリミステリしてない分、対照的にトリッキーさが光ります。
「賭博場のカモ」(The Mug in the Gambling Hell)★★★☆☆
――賭博場へ出かけたアルピットという青年が、消息を絶っています。殺人のようにも思えます。大博打が打たれるところでは、自殺も日常茶飯事です。
なんだか逆説シリーズみたいになってきましたが、これはリンリーも言っているとおり「あたりまえ」過ぎて拍子抜けでした。
「手がかり」(The Clue)★★★☆☆
――電話で空き家に呼び出されて殺されたイーブライト氏の事件があります。手がかりがまったくありませんでした。ただ、犯人は被害者を待っている間、クロスワードをやって時間をつぶしていたようでした。
冗談みたいな名探偵ぶりですが、スティーガーものにも通じる結末ににんまりします。
「一度でたくさん」(Once Too Often)★★★★☆
――夫が妻を殺して姿を消しました。警部は捜している男の写真をリンリーさんに見せました。「大変な難事件ですね。とても目立つ顔なのに、まだ見つかっていないというのは、明らかに難事件です」
ここに来て意外とまともなミステリだったのでびっくりしました。そうはいってもまともに書けばギャグにしかならないようなことなんですが、このシリーズだからこその発想です。
「疑惑の殺人」(An Alleged Murder)★★★★☆
――アルリックという娘が何者かに殺された。メリットがやったのではない。陪審の評決はそうだった。そして、エイミーは昨年メリットと結婚してまもなく、姿が見えなくなった。
てっきりまるごと一冊リンリー&スメザーズものだと思っていたので、あまりの異色ぶりにびっくりしました。なるほどシリーズはスティーガーが逮捕されてお終い――だったんですね。絶対に殺人があったはずなのに、証拠がないから誰も相手にしてくれない……パニクればサスペンスになるところだけれど、語り手は冷静に状況を分析しています。もやもや感が不気味です。
「給仕の物語」(The Waiter's Story)★★★☆☆
――給仕というのは皆さんが思うより見聞きしているものなのです。掃除夫に何か無礼なことを言われて、アメリカの大富豪が秘書に命令しました。「あの男を殺させろ」
そのまま何も知らずに死んでいたのではあんまり復讐にならないだろうに、給仕が本人に教えたばっかりに、復讐として完結するのが皮肉です。
「労働争議」(A Trade Dispute)★★★★☆
――一人しかいないはずの商人が二人国内に入っていることがわかった。どちらかがスパイのはずだが……。
……というあらすじだけでも面白いのですが、一見近代的労働システムとは無関係なインド人社会に「労働争議」という概念を援用することで、事件がすぱっと割り切れるところに面白味があります。
「ラウンド・ポンドの海賊」(The Pirate of the Round Pond)★★★☆☆
――ボブ・ティプリングはいつだって偉大だ。ぼくがこれから話すのは、海賊としてのボブの話だ。
子どもが語り手で、ほかの収録作と比べると長さも長め。腕白で(ちょっとアブナイ?)ガキ物語ですが、最後になってある登場人物の見せる行動が、かなり不気味です。よかれあしかれ子どもの世界というのは、子どもだけの世界のはずなのに。。。
「不運の犠牲者」(A Victim of Bad Luck)★★★☆☆
――夜中にポッターの家に押し入ってみることになった。いつもラジオの音量を最大にしているから、気づかれっこない。
どういうことなのかまったくわからなかったのですが、こういうことらしい。
「新しい名人」(The New Master)★★★☆☆
――その機械はチェスができた。だが知能はともかく、その機械は短気で礼儀作法が悪かった。
機械と嫉妬といういかにもSF的なテーマが扱われていますが、その点よりも、明らかに優れているはずの機械が、機械であるがゆえに人間側のミスが原因で負けるという点が面白い作品でした。
「新しい殺人法」(A New Murder)★★★☆☆
――「ターランド氏が私を殺そうとしています」「朝食用のジムジムを開発した方ですな。どうして彼があなたを殺そうとするんです?」「私がその製法を知っているからです」
これはスメザーズものにも通ずるおかしなユーモア・センスと不可能犯罪の作品でした。
「復讐の物語」(A Tale of Revenge)★★★★☆
――「復讐は最悪の感情だ。相手にも同じことをやるまで決してやめようとはしない」「相手がやろうとしたことは些細なことだったんでしょう」「そこまでは言わないがね。彼はそいつを食べようとしたんだ」
同じネタならこちらの方がスマートで好み。あちらは探偵小説なのに奇譚なところが何ともいえない歪んだ味をかもし出していますが、こちらはとうから奇譚なのでバランスがいい。
「演説」(The Speech)★★★★☆
――ピーター・ミンチが演説をすれば、外国を刺激して、戦争は避けられないだろう。ミンチの所属する党本部に男がやって来た。「これは脅迫ではなく警告だ。演説は決して行われないだろう」
とんちのきいた実行方法が印象的です。何かの譬えにあったけれど、普通の人間は暗闇で紙幣に火をつけて灯り代わりにはしません。本書にはそういう、切れ味は鋭いんだけど切る方向が普通じゃないような作品がいくつかあります。
「消えた科学者」(The Lost Scientist)★★★☆☆
――その小村では、原子核分裂を研究していた。クライジチュという男がいた。彼はヒトラーのもとで原子爆弾の開発に携わった有能な男だったが、はたして信用できるのだろうか?
なんて大技。盗むという行為に対して発想を転換した対処法がお見事。
「書かれざるスリラー」(The Unwritten Thriller)★★★☆☆
――「政治から彼を遠ざけてください」探偵小説を書こうとした男が、トリックを考えついた途端に、書くことをやめてしまった。まさか実行に移そうとしているのでは……?
謎のままの真相が「死んだ芋虫」というのが人を食ってます。あえて「毒」という言葉を使わない方がより雲をつかむようで面白かったと思うのですが、たぶん著者は別にヘンな話を書こうとしていたわけではないのでしょうね。
「ラヴァンコアにて」(In Ravancore)★★★☆☆
――ラヴァンコアで、アメリカ人がお土産に偶像を買った。二人のインド人から集会に誘われ、偶像をポケットに入れてついていった。途中で、何者かに尾行されているらしいことに気づいた。
新アラビア夜話のような趣の、巻き込まれ犯罪奇譚。購入品をじかにポケットに入れることに抵抗感を持ちながら、同時に無学な人間をありがたがる文明人が皮肉です。
「豆畑にて」(Among the Beam Rows)★★★☆☆
――私はその大量殺人結社の正規メンバーになり、彼らを監視するスパイだった。ある日、議長が立ち上がって「われわれの中にスパイがいる」と言ったときは驚いたのなんの。
最後が間抜けな殺人者でかわいいんですが(^_^。
「死番虫」(The Death-Watch Beetle)★★★☆☆
――その泥棒は恐喝屋になったんだ。『あなたが私に金を渡さないなら、あなたは死ななければなりません』
老刑事シリーズらしい。英語だとおそらく、文字どおり「死を秒読みする虫」というのと掛けているんでしょうけど、日本語だとそういう皮肉が伝わらずただの奇妙な犯罪になってます。
「稲妻の殺人」(Murder by Lightning)★★★☆☆
――おぞましい事件だった。計画殺人だ。何年も前から計画されていた。犯人は、被害者が雷に打たれるのを見ようと待っていたんだ。
これも元刑事リプリーもの。事件自体はえらく旧式の機械トリックなんだけれど、ボケ老人が変なこと語り始めたぞ、みたいなとぼけた調子が、奇妙な味を醸し出してます。
「ネザビー・ガーデンズの殺人」(The Murder in Netherby Gardens)★★★☆☆
――スタンターが弁護した事件で敗訴したものは一件もない。「殺人事件はあつかっているのかい?」「ああ、読んでみるかね?」……私は知り合いのインカー氏に会いに出かけました。家に入ると、彼の姿が目に飛び込んで来ました。しかも、彼は人殺しをしていたのです……。
ミステリだと思って読んだら意表をつかれますが、でも現実には裁判なんてこれが当たり前のはずで(もちろん普通はこんな身も蓋もない言い方はしませんが)、そこが面白い。
「アテーナーの楯」(The Shield of Athene)★★★★☆
――ラクスビーは新聞の切り抜きを示した。そこには、ある彫刻家の作品に対する批評がいくつかと、若い娘の失踪記事があった。
親のいうことを聞かずに名探偵になったという時点でおかしくって仕方ありません。ましてや……。
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