『こんな本があった! 江戸珍奇本の世界』塩村耕(家の光協会)★★★★☆

 サブタイトルに「古典籍の宝庫岩瀬文庫より」とあるように、岩瀬文庫所蔵の古典籍が紹介されている本です。

 古典籍についての簡単な解説付。忍者が巻物をくわえている理由から始まる、読みやすくて親切な解説です。

 紹介されている本が影印でも翻刻でも刊行される可能性は低そうなのが残念なところです。

 『幼稚遊昔雛形』は、江戸時代の子どもの遊びや遊び歌の紹介本。「蛙が鳴くからか〜えろ」はボウフラの歌だったんですね! 風俗資料として面白いと思うんですけどねえ。『守貞謾稿』みたいに、岩波文庫で出してくれてもおかしくないと思うんですが。

 『尚占影響』は、占いの解説書。――なのですが、占ってもらう内容が、しょーもない人生相談みたいな内容で笑えます。生活できなくなったので仕事をやめて、俳諧の判定人になるか養子になるか、どっちがいいでしょうか?

 『五色めがね』は、江戸の大道芸人たちの紹介文です。書かれた当時にすでに絶えてしまっていた職業について書かれているというのが貴重です。

 『桃郎伝』は、十歳の子どもが桃太郎を漢訳したという珍品。

 『礫渓猿馬記』は、小さくなった語り手が庭を横断するSF。――とだけ聞くと面白そうなのですが、「内容には仏教的な教訓ないし寓意が込められており、そう取っつきやすいものではない」とのこと。

 『諸国ゐんぐは物がたり』は、怪談本。怪談本なら最近のブームの続いているあいだに刊行してもらえないかな。

 『八盃豆腐』は、武士の心得集。目の前で傍輩が刀を抜いたらどうする? 傍輩が家来を手打ちにし損ねて自分のところに逃げ込んで来たらどうする? などなど、

 『蛛のふるまひ』は、どこといって特別なところのない随筆ですが、名文なのです。家族の一日を描いた文章などが紹介されていて、ほっこりした気分になれます。

 『榴弾私説』は、まあ、兵器についてのバカ本です。
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