『殺意の架け橋 アジア本格リーグ5』S・マラ・Gd/柏村彰夫訳(講談社)★★☆☆☆

 『Misteri Rubrik Kontak Hati』S. Mara Gd,1993年。

 インドネシアで唯一の謎解きミステリ作家による、三十作にものぼる人気シリーズ第20作。

 余計なごちゃごちゃを取り払って、中篇くらいだったらけっこう面白い作品だったのではないでしょうか。

 シリーズものなのでシリーズキャラクターによるファンサービス的な恋愛・友情・家族愛の描写もあり、初めて読むわたしにはピンと来ませんが、こればかりは仕方がありません。

 しかし何というか、このシリーズキャラクターの一人である少女というのが、島荘さんの里美じみた馬鹿女で、もう読むのがつらくてつらくて。ただ作品内からも窺えるように、インドネシアではまだまだ人権や女性の権利が低いようなので、たとえ全力で間違っていたとしても、こういう芯の強い女が描かれること自体に意味があるのかもしれません。

 で、この少女デッシーの恋愛論もそうなのですが、作中人物たちが恋愛や結婚や宗教についてやたらと説教臭くて青臭い議論を語る語る。本書の半分ぐらいがこうした退屈な議論でした。

 しかも、そうした議論を語るのが、前述した里美級の馬鹿女のほか、宝石の仲介業者でありながら金庫でもなくただの戸棚に宝石を仕舞っていることの危険性を会ったばかりの人に指摘されてびっくりする人や、どう見てもボケているとしか思えないような状況で証言を早とちりして人を一人殺させてしまう警察官など、腹が立つほどの馬鹿ばっかり。いや、笑うべきか。

 もうはっきり言って無茶苦茶なんですが、なぜか謎解き部分だけはわりとまとも。捜査場面では、強硬性硬直という専門的な言葉が出てきてびっくりさせてくれます。いくつかの事件や偶然が重なったことで事態が奇妙な様相を呈しているところなど、さすがに偶然にもほどがあるとはいえ、かなり本格的です。被害者の車とガレージの扉と鍵の状態から、現場で実際にどういうことが起こったのかを推理する場面には感心しました。

 ※一ページ目に書かれてある「高速道路での殺人事件」というのが気にかかる。ダンプで突っ込んだとか銃撃したとか……? 道路の構造自体が日本とは違うとか……? いろいろ考えてしまったけれど、単純にサービスエリアが現場ということなのかも、とようやく気づく。

 「離婚経験者、三十二歳。収入は最低月三百万、子供を望まない人生のパートナーを希望」友人たちの勧めで、新聞の結婚相手募集欄『心の架け橋』に投書したティアの前に、三週間後、条件通りの応募者パウルが現れる。二人は順調に交際を進めるが、一方でティアは、宝飾品仲介業の仕事でトラブルを抱えていた。品物を預けたまま連絡のつかない顧客と支払いを求める委託主の間で板挟みになっていたのだ。事態の収拾に奔走するティア。そして支払期限の日、悲劇は起こった……。二転三転する殺人事件の謎に挑むのはコサシ警察大尉とゴザリの名コンビ。インドネシアの人気警察小説シリーズ初登場。(カバー袖あらすじより)
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