『スワロウテイル人工少女販売処』籐真千歳(ハヤカワ文庫JA)★★★☆☆

 『θ 11番ホームの妖精』の著者の第二作。また妖精です。今回は一応ライトノベルではなく一般向けということのようです。それにしては説明的すぎる文章は相変わらずなので、あれはライトノベルだからというわけではなく、この著者のクセなのでしょうか。「隣にいる小競り合いの仲裁で腕を鳴らした程度の、二十歳半ばの若造の初の現場」とか。ほかに長々とした罵倒とちょこちょこ挟まれる駄洒落も。

 感染症対策により男女が棲み分けられ、人工妖精《フィギュア》を伴侶に暮らす未来の自治都市。男性地区で人工妖精による連続殺人が発生。ロボット三原則ならぬ倫理三原則を犯して人を殺せる人工妖精は何者なのか。何度破壊してもまた現れて人を殺す犯人「傘持ち《アンブレラ》」。五等級の人工妖精・揚羽は、ばらばらにされたアンブレラの蝶型微細機械《マイクロマシン》から、記憶を読み取ろうとするが……。

 一方、揚羽と暮らす原型師・鏡子のもとを、一人の少年が訪問した。公共仕様の人工妖精・置名草の修理のためだった。一日しか記憶の残らない水先案内人《ガイド》である置名草は、通常であれば修理せずに処分されてしまう。直すことができるのは置名草の原型師だけ。だが原型師は女性自治区に住んでいた。揚羽たちは密出区を企てる……。

 第一部では冒頭の連続殺人以外は特に何も起こらず、舞台設定の説明に費やされているようなところがありましたが、第二部では、第一部の伏線が一気に結実します。倫理三原則や水先案内人《ガイド》、アンブレラといったピースがカチリとはまってゆくところは、第二部にしてすでにクライマックス。『θ』でも現れていた著者のSF気質が見事に現れた部分でした。

 第三部では、第二部で明らかにされた真実すら飲み込むような形のさらに大きな真実が明らかになります。自治区の発生にもかかわってくる真実なので、風呂敷を広げたというよりは初めからそういうふうに組み立てられているわけですが、それにしてもちょっと広げすぎというか、詰め込みすぎのきらいがありました。人類の進化から人間の意識、〈種のアポトーシス〉の正体、連続殺人の真相、各組織による政治的駆け引き、果ては現実の米軍基地問題までが、一つの問題に収斂されるのは、贅沢といえば贅沢なんですが……。長い説明書を読まされているような気分でした。

 SF的な設定が都合がいいくらい見事に回収されるところは好きなのですが、饒舌な文体やヒューマンな泣かせどころが苦手なので……そうではない作品も一作くらい読んでみたいです。

 途中から視点が切り替わるのですが、視点というか、台詞の応酬はそのままで、ツッコミ役だけが変わったような書かれ方なので、かなり違和感がありました。

 〈種のアポトーシス〉の蔓延により、関東湾の男女別自治区に隔離された感染者は、人を模して造られた人工妖精《フィギュア》と生活している。その一体である揚羽《あげは》は、死んだ人工妖精の心を読む力を使い、自警団《イエロー》の曽田陽介と共に連続殺人犯“傘持ち《アンブレラ》”を追っていた。被害者の全員が子宮を持つ男性という不可解な事件は、自治区の存亡を左右する謀略へと進展し、その渦中で揚羽は身に余る決断を迫られる――苛烈なるヒューマノイド共生SF(カバー裏あらすじより)
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 ほかに麻耶雄嵩貴族探偵』、ふくろうの本『図説 魔女狩り』、パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』、ジョージェット・ヘイヤー『紳士と月夜の晒し台』を読んだ。ヘイヤーはセイヤーズも認めたロマンス作家というふれこみ。でも帯に引用されたセイヤーズの言葉は、キャラの魅力についてのもので、ミステリについてではなかった。お馬鹿な人たちが他人を小馬鹿にして事態をかき回すタイプのドタバタです。『ねじまき少女』は、これまでSFマガジンで短篇がいくつか紹介されて来た作家の初長篇。「カロリーマン」や「イエローカードマン」と同じ作品世界が舞台となっています。『貴族探偵』は内容は最高なのに、装幀がかっこ悪い。貴族に憧れている少年探偵団みたいなイメージなのかな?


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