『S-Fマガジン』2020年02月号No.737【創刊60周年記念号】

 記念号としての目玉は、思い出の号について語った60人によるエッセイなのでしょうけれど、それこそ他人の思い出話ばかりで面白いものではありませんでした。作家の資料としては価値があるのでしょうけれど、たぶん字数が短すぎて思い出+αを工夫する余地がないのでしょう、筒井康隆の文章ですらあまり面白くないというのはただ事ではありません。
 

戦闘妖精・雪風 第四部 哲学的な死(前編)」神林長平

「空の園丁 廃園の天使III」(1)飛浩隆

「三体II 暗黒森林(プロローグ)」劉慈欣

「故郷へのまわり道」グレッグ・イーガン山岸真
 

「乱視読者の小説千一夜(64)Mの背後にいる男」若島正
 

「書評など」
◆映画『ミッドサマー』は、民俗学の研究者らが奇習を目撃して不安と恐怖を覚えてゆくという内容で、「二人の関係と村の夏至祭が巧みに絡んでゆく物語がみごと」とのこと。
 

「本の泉 泉の本」高野史緒
 ――四郎は古書店で尾田利恵の詩集を手に取った。買うつもりはなかったが、失われた短篇だと思われていた三篇が散文詩の形で収録されているのを見て気が変わった。吉永英里『温かい部屋』は、いかにも昭和四十年代らしい大家族が誘拐事件を経て崩壊してゆく過程は真に迫っているが、解決に向けて偶然が重なってゆくところに鼻白むものがある。白川雅也『秋田県境殺人事件』は、寝台列車と地元の交通網を使った巧みなトリックを、沖に現れた蜃気楼の像がきっかけで解いてゆく、ありきたりとは程遠いスリリングな展開らしい。

 存在しない本がひたすら紹介されてゆくだけという内容からは、ネルスン・ボンド「街角の書店」などを連想しましたが、あちらは著名作家の書かれざる本という著名度に頼った作品であるのに対し、こちらはイチからあらすじを考えているのが凝っています。……が、凝っているだけで終わっているような。。。
 

「SFのある文学誌(67)伊藤整――新心理主義・あるいは内宇宙への旅」長山靖生
 

「SFの射程距離(2)「歩行」に魅せられて」横田秀司
 日本人だけが二足歩行ロボットにこだわるのは、鉄腕アトムガンダムドラえもんがあったからとは言われていましたが、フランスで日本のアニメ『グレンダイザー』が放映されていた影響で横田氏の研究室メンバーの半分くらいがフランス人なのだそうです。あと10年くらいのあいだに「掃除ロボットのルンバに腕が生えた感じで、『例のあれ持ってきて』『ごみ出しておいて』などの指示に従う小型ホームロボットが10万円くらいで普及すると思います」、次の10年でヒューマノイド、さらに次の10年で時速60kmで走り自重の3倍のものを運べる超人的ヒューマノイド……「そんなシナリオを思い描いています」。凄い世界です。考えてみればC-3POも動きはぎこちないわけですし、人間そっくりというのでなければ案外いけるのかもしれません。
 

「シンポジウム『Sai-Fi: Science and Fiction SFの想像力×科学技術』パネルセッション採録」劉慈欣・上田早夕里
 劉氏は『日本沈没』に大きな影響を受けたそうですが、そう言われるとどちらもスケールの大きなトンデモエンタメです。
 

「SF小僧と狼男」とり・みき
 記念号ごとに描かれる記念漫画。

  


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